第28回 里海セミナー(ON LINE)開催のご案内 20220310UP
柏島で行った調査研究(学生の卒論修論研究なども)や、黒潮実感センターにお越し下さった研究者の方、あるいはぜひ地元や関心のある人に訊いて貰いたい話題などを里海セミナーでお話しして頂いています。
黒潮実感センターでは高知県大月町柏島や黒潮実感センターで調査研究を行った成果を、里海セミナーとして発表して頂いています。
第28回目となる今回は2名の学生の皆さんにご発表頂きます。
通常なら柏島で開催し、その後参加者の皆さんと懇親会も行うのですが、コロナ禍の折ZOOMでのオンラインセミナーという形で開催することにいたしました。
従って距離の壁がありませんので、日本全国、海外からのご参加もお待ちしております。
関心のある全ての方のご参加をお待ちしております。
第28回 里海セミナー柏島
E-mail: info@kuroshio.asia

澤田昂汰 氏
澤田昂汰(水圏環境教育学研究室)
T.はじめに
近年,人と人,人と自然の関係によって生じる関係価値への注目が高まっている。関係価値と環境教育の対応に関する研究において,環境教育や環境教育以外の要因が関係価値にどのように影響し,関係価値の変化にどのように結びつくのか, 関係価値が行動にどのように結びつくのかといった点は明らかになっていない(Britto dos Santos and Gould,2018)。そのため,本研究では高知県幡多郡大月町柏島で環境教育を含む様々な活動を行っている「NPO法人黒潮実感センター」の活動を事例に, 環境教育を実践したことによって関係価値がどのように変化したのか,どの程度持続しているのか,環境教育以外の要因で関係価値はどのように変化しているのか,関係価値がどのようにして活動に結びついているのかといった点を検討していく。
U.研究方法
本研究では,「NPO法人黒潮実感センター」のセンター長である,神田優氏にこれまでのNPOの活動についてのお話を頂き,得られた定性的データにSCAT分析を行い,コーディングを行った後,得られたコードを関係価値,道具的価値,本質的価値に分類し,環境教育とその他の活動による関係価値の変化と関係価値による行動変容について分析した。
V.結果・考察
分析の結果,環境教育によって,柏島の人々に個人・社会的アイデンティティの関係価値が醸成されたことが明らかになった。また,環境教育以外の活動においても社会的アイデンティティや社会的結束の関係価値が醸成されたことが明らかになった。また,関係価値が醸成されたことによる柏島の漁業者とダイバーの行動変容も確認された。
これらの結果から,黒潮実感センターの活動の経験によって,関係価値が動的に変化していることが明らかとなり,先行研究の結果と一致した(Britto dos Santos and Gould, 2018)。また,関係価値によって,活動への支援という形で神田氏の活動に関わり合う,「関係人口」(総務省,2018)が醸成されている点や環境教育などの活動によって,人と人,人と自然の繋がりにも変容が見られたことも明らかとなり,経験を含む活動には重要性があると言える。

熊本淳平 氏
熊本淳平(国際水産開発学研究室)
1.はじめに
沿岸域と人間社会の調和に向けた手段のひとつとして、里海という概念が提唱されている。これは漁業の伝統が重要な日本において、生物の多様性だけではなく、海面の利用の多様性も考慮した考え方である。里地里山と似たイメージで里海という言葉が頻繁に使われているが、里海の定義は地域・人により様々で、何をさして里海と呼ぶのか、里海づくりにはどのような活動が必要なのか等の共通理解は得られていない。また国際社会では、海洋保護区の設置や拡大を推し進める動きもある。この中で日本独自の保全形式である里海の定義を明確にし、国際社会に内容を説明することが急務となっている。しかし、西洋発で行なわれている国際社会の議論に、日本の沿岸域における人間・社会と自然との複雑な関係性が反映されているとは言いがたく、また里海という日本ならではの保全の形式と西洋発の海洋保全の考え方がどう整合するのかも整理されていない。そこで本研究では、里海づくりに直接携わってきた関係者の方々とインタビューを通し里海の共通概念の構築を行なっていき、人と海との関係性の観点から関係価値といった環境保全の議論の問題点について考察していく。ここでいう関係価値とは「自然と調和した生活を含む、人々と自然との間の理想的な関係に寄与する価値」を指す。
2.研究方法
一連の半構造型インタビューを通して、海と人との関係性および里海の考え方について情報を収集した。それぞれのインタビューでは、ZOOMを利用したオンラインでのヒアリング調査(約1時間ずつ)を実施し、またレコーディングを行なうことで、正確なインタビュー記録作成に努めた。研究のインタビュー対象者は、里海保全活動または里海教育に直接的に携わっている里海の実質的なメインアクターの方々とした。また、調査協力者はスノーボール・サンプリング方式を採用して協力を依頼した。解析では、録音したインタビューを文字に起こし、MAXqdaソフトウェアを用いてコーディングした。
3.結果
各団体は多様な里海の活動を、それぞれの地域で実施している。これらを活動の軸ごとに分析すると次の4つに分類することが出来る:@地域内で多様な産業と連携した地域づくり活動;A地域内での教育・海の価値を高めるための活動;B他の地域や外部のステークホルダーと連携した活動;C新しい海の利用のあり方を模索する活動。今回のインタビューから、各地域で里海の捉え方や、実際の行動内容が多様であること、また地域に依存した活動であることを政策として意識する必要性があることが明確になった。特に、里海という活動をとおした共通のキーワードとして全ての地域で指摘されていたのは、@環境の変化と、A環境と人の暮らしをつなぐという点である。つまり、里海のひとつの共通概念として変化していく自然環境と社会環境に適応していきながら、海を保全するだけではなく環境と暮らしをつないでいくとの点が各地域の共通認識として認められた。すなわち、人の活動が必ずしも海の環境によい影響を与えるわけではないように、変化していく海も人に恵みをもたらすだけの存在ではないこと、だからこそ利益を一方的に享受する関係ではないこと、また人も海を育むといった関係性が重要になっていることが各地域で共通認識として存在していることが認められたといえる。ここから、海を保全することを考えた際、このような人間と海の複雑な関係性・お互い影響しあう双方向の関係性を考慮することが重要であると示唆される。
4.考察
今回のインタビューで里海の共通概念として明らかになった、環境と人の暮らしをつなぐ、環境の変化に適応していくという点はまさに海と人との双方向のベクトルの営みのなかの関係性として解釈できる。ゆえに、今回のインタビューの結果、持ちつ持たれつの関係性のなか利益を一方的に享受する関係ではない、人も海を育むといった関係性が強調されていたが、そこには人間が中心か自然が中心かといった関係性はなかった。今後、里海を評価していくにあたってこのような関係性から生まれる価値を考慮することで、より持続的な沿岸域の利用を図ることができる可能性がある。また、その関係に着目した価値は、里海と親和性が高い側面をもっているが多様な人々が営む暮らしの海との不可分のつながりを断片的にしか捉えられていないことも示唆されたと考える。海と人のつながりに着目した議論は重要であるが、日本における里海を議論する際には、海と人との双方向の関係性を追加的な視点として加味する必要があると考える。
5.結論
本研究では、多様な里海の取り組みの共通概念と里海における人と海とのかかわり方を、日本における関係者へのインタビュー結果を用いて明らかにした。人と自然との関係性に着目した西洋発の議論については、今回のインタビューの結果から、現状では日本の里海では生業・生活としての不可分のつながりが存在していることを充分に考慮していないと結論づけることができる。一方で日本の里海については、これを環境保全としての取組みではなく、人間の営みを維持していくといった観点の取組みとして捉え直すことが適切であると結論づけることが可能である。今後は、海洋保護区の設置の際に、生業・生活を自然から切り離すことのデメリットなどをあわせて議論することで海洋環境保全の枠組みの幅を拡げることが重要である。
黒潮実感センターでは高知県大月町柏島や黒潮実感センターで調査研究を行った成果を、里海セミナーとして発表して頂いています。
第28回目となる今回は2名の学生の皆さんにご発表頂きます。
通常なら柏島で開催し、その後参加者の皆さんと懇親会も行うのですが、コロナ禍の折ZOOMでのオンラインセミナーという形で開催することにいたしました。
従って距離の壁がありませんので、日本全国、海外からのご参加もお待ちしております。
関心のある全ての方のご参加をお待ちしております。
第28回 里海セミナー柏島
日時:2022(R4)年3月18日(金)19:00〜21:00
参加費:無料
参加形式:Zoomミーティングによるオンライン参加
参加申し込み方法:ZoomミーティングIDとパスワードをお送りしますので、
下記まで3/18 18:00までにメールでお申し込み下さい。E-mail: info@kuroshio.asia
発表者1:澤田昂汰 氏(東京海洋大学水圏環境教育学研究室 4回生)
発表1:関係価値の変容とその可能性 −NPO法人黒潮実感センターを事例として−

澤田昂汰 氏
発表要旨1
関係価値の変容とその可能性 −NPO法人黒潮実感センターを事例として−澤田昂汰(水圏環境教育学研究室)
T.はじめに
近年,人と人,人と自然の関係によって生じる関係価値への注目が高まっている。関係価値と環境教育の対応に関する研究において,環境教育や環境教育以外の要因が関係価値にどのように影響し,関係価値の変化にどのように結びつくのか, 関係価値が行動にどのように結びつくのかといった点は明らかになっていない(Britto dos Santos and Gould,2018)。そのため,本研究では高知県幡多郡大月町柏島で環境教育を含む様々な活動を行っている「NPO法人黒潮実感センター」の活動を事例に, 環境教育を実践したことによって関係価値がどのように変化したのか,どの程度持続しているのか,環境教育以外の要因で関係価値はどのように変化しているのか,関係価値がどのようにして活動に結びついているのかといった点を検討していく。
U.研究方法
本研究では,「NPO法人黒潮実感センター」のセンター長である,神田優氏にこれまでのNPOの活動についてのお話を頂き,得られた定性的データにSCAT分析を行い,コーディングを行った後,得られたコードを関係価値,道具的価値,本質的価値に分類し,環境教育とその他の活動による関係価値の変化と関係価値による行動変容について分析した。
V.結果・考察
分析の結果,環境教育によって,柏島の人々に個人・社会的アイデンティティの関係価値が醸成されたことが明らかになった。また,環境教育以外の活動においても社会的アイデンティティや社会的結束の関係価値が醸成されたことが明らかになった。また,関係価値が醸成されたことによる柏島の漁業者とダイバーの行動変容も確認された。
これらの結果から,黒潮実感センターの活動の経験によって,関係価値が動的に変化していることが明らかとなり,先行研究の結果と一致した(Britto dos Santos and Gould, 2018)。また,関係価値によって,活動への支援という形で神田氏の活動に関わり合う,「関係人口」(総務省,2018)が醸成されている点や環境教育などの活動によって,人と人,人と自然の繋がりにも変容が見られたことも明らかとなり,経験を含む活動には重要性があると言える。
発表者2:熊本淳平 氏(東京大学大学院 農学生命科学研究科 農学国際専攻 修士2年生)
発表2:人間と自然との関係性からみる海洋環境保全の課題 -里海を事例として-

熊本淳平 氏
発表要旨2
人間と自然との関係性からみる海洋環境保全の課題 -里海を事例として-熊本淳平(国際水産開発学研究室)
1.はじめに
沿岸域と人間社会の調和に向けた手段のひとつとして、里海という概念が提唱されている。これは漁業の伝統が重要な日本において、生物の多様性だけではなく、海面の利用の多様性も考慮した考え方である。里地里山と似たイメージで里海という言葉が頻繁に使われているが、里海の定義は地域・人により様々で、何をさして里海と呼ぶのか、里海づくりにはどのような活動が必要なのか等の共通理解は得られていない。また国際社会では、海洋保護区の設置や拡大を推し進める動きもある。この中で日本独自の保全形式である里海の定義を明確にし、国際社会に内容を説明することが急務となっている。しかし、西洋発で行なわれている国際社会の議論に、日本の沿岸域における人間・社会と自然との複雑な関係性が反映されているとは言いがたく、また里海という日本ならではの保全の形式と西洋発の海洋保全の考え方がどう整合するのかも整理されていない。そこで本研究では、里海づくりに直接携わってきた関係者の方々とインタビューを通し里海の共通概念の構築を行なっていき、人と海との関係性の観点から関係価値といった環境保全の議論の問題点について考察していく。ここでいう関係価値とは「自然と調和した生活を含む、人々と自然との間の理想的な関係に寄与する価値」を指す。
2.研究方法
一連の半構造型インタビューを通して、海と人との関係性および里海の考え方について情報を収集した。それぞれのインタビューでは、ZOOMを利用したオンラインでのヒアリング調査(約1時間ずつ)を実施し、またレコーディングを行なうことで、正確なインタビュー記録作成に努めた。研究のインタビュー対象者は、里海保全活動または里海教育に直接的に携わっている里海の実質的なメインアクターの方々とした。また、調査協力者はスノーボール・サンプリング方式を採用して協力を依頼した。解析では、録音したインタビューを文字に起こし、MAXqdaソフトウェアを用いてコーディングした。
3.結果
各団体は多様な里海の活動を、それぞれの地域で実施している。これらを活動の軸ごとに分析すると次の4つに分類することが出来る:@地域内で多様な産業と連携した地域づくり活動;A地域内での教育・海の価値を高めるための活動;B他の地域や外部のステークホルダーと連携した活動;C新しい海の利用のあり方を模索する活動。今回のインタビューから、各地域で里海の捉え方や、実際の行動内容が多様であること、また地域に依存した活動であることを政策として意識する必要性があることが明確になった。特に、里海という活動をとおした共通のキーワードとして全ての地域で指摘されていたのは、@環境の変化と、A環境と人の暮らしをつなぐという点である。つまり、里海のひとつの共通概念として変化していく自然環境と社会環境に適応していきながら、海を保全するだけではなく環境と暮らしをつないでいくとの点が各地域の共通認識として認められた。すなわち、人の活動が必ずしも海の環境によい影響を与えるわけではないように、変化していく海も人に恵みをもたらすだけの存在ではないこと、だからこそ利益を一方的に享受する関係ではないこと、また人も海を育むといった関係性が重要になっていることが各地域で共通認識として存在していることが認められたといえる。ここから、海を保全することを考えた際、このような人間と海の複雑な関係性・お互い影響しあう双方向の関係性を考慮することが重要であると示唆される。
4.考察
今回のインタビューで里海の共通概念として明らかになった、環境と人の暮らしをつなぐ、環境の変化に適応していくという点はまさに海と人との双方向のベクトルの営みのなかの関係性として解釈できる。ゆえに、今回のインタビューの結果、持ちつ持たれつの関係性のなか利益を一方的に享受する関係ではない、人も海を育むといった関係性が強調されていたが、そこには人間が中心か自然が中心かといった関係性はなかった。今後、里海を評価していくにあたってこのような関係性から生まれる価値を考慮することで、より持続的な沿岸域の利用を図ることができる可能性がある。また、その関係に着目した価値は、里海と親和性が高い側面をもっているが多様な人々が営む暮らしの海との不可分のつながりを断片的にしか捉えられていないことも示唆されたと考える。海と人のつながりに着目した議論は重要であるが、日本における里海を議論する際には、海と人との双方向の関係性を追加的な視点として加味する必要があると考える。
5.結論
本研究では、多様な里海の取り組みの共通概念と里海における人と海とのかかわり方を、日本における関係者へのインタビュー結果を用いて明らかにした。人と自然との関係性に着目した西洋発の議論については、今回のインタビューの結果から、現状では日本の里海では生業・生活としての不可分のつながりが存在していることを充分に考慮していないと結論づけることができる。一方で日本の里海については、これを環境保全としての取組みではなく、人間の営みを維持していくといった観点の取組みとして捉え直すことが適切であると結論づけることが可能である。今後は、海洋保護区の設置の際に、生業・生活を自然から切り離すことのデメリットなどをあわせて議論することで海洋環境保全の枠組みの幅を拡げることが重要である。
投稿:
Kanda
/2022年 03月 14日 17時 34分