2007年08月24日(金) 高知新聞夕刊 進む「柏島プロジェクト」
大月発くろしお便り(黒潮実感センター)
進む「柏島プロジェクト」

柏島の児童の思いが詰まった立て看板(円満堂修治氏撮影写真はいずれも大月町柏島)土佐の海の環境学
高知県の西南端に位置する周囲3.9kmの柏島周辺海域には広範囲に造礁サンゴ群が広がり、日本最多の一千種を超える魚たちが生息している。希少な魚類も多く見られることから近年ダイビングの人気スポットともなり、県内外から多くのダイバーやレジャー客が訪れるようになった。しかしそれに従い、海中環境が荒廃したり、漁民とダイバーとの紛争(現在は沈静化した)、レジャー客による違法駐車やゴミの不法投棄など様々な問題が生じてきた。
お盆のころの柏島キャンプ場付近。道路上も違法駐車だらけ

分別されずに不法投棄されたゴミこのような柏島をフィールドに、平成十一年から高知大学との共同研究「柏島プロジェクト」が始まった。自然科学(海洋)と社会科学(経済・法律)の双方のアプローチによる「島学」である。
この研究成果は高知大学の共通講義「土佐の海の環境学(通称柏島学)」として学生に還元している。これまで成果を元にした教科書の作成や海中映像の教材作成およびシンポジウムなども開催してきた。当初は高知大学での講義主体であったが、平成十七年より受講生が座学のみならず、島に来て島の自然と暮らしを実感するフィールド実習も行っている。
今年からは高大連携授業としてリニューアルし、県内高等学校の生徒も参加する形態をとることになり、八月二十三日から二十八日までの六日間開催する。内二十五日から二十七日までの三日間は柏島でのフィールド実習となる。
講義では柏島の海洋生物の多様性とそれを支える海の環境について、自然科学の側面からの講義をおこない、そのあとそのようなすばらしい環境の柏島で、今どのような問題が起こっているのかを社会科学的側面からみていく。海の保全や管理をめぐる現在の制度や法律の考え方などについて、法学的観点から検討する。
また柏島で起きている人と環境をめぐる様々な問題点をどう解決していくか、柏島の海の経済的価値をどう評価し、生物多様性の保全や地域社会の維持・発展をどんな観点で進めていくべきか経済学的側面から考える。
体験、実感、提言
現地では柏島の海のすばらしさをシュノーケリング実習で体験実感し、かつ座学で学んだ様々な問題について、島内を学生らが歩き調べることで実感する。そして地域住民と膝をつき合わせて討論するような座談会(パネルディスカッション)も開催する。今年のテーマは「柏島の保全と活性化―外からの視点、内からの視点―」である。柏島のもつ自然環境や人情のすばらしさとそこで起こっている問題について、外からの視点としての学生らの意見と、内の視点からとしての島の住民の意見をお互い出し合う中で、解決策を見いだしていきたいと考えている。
授業最終日にはこれまでの講義や体験、座談会での内容をもとに、学生らが、ワークショップ形式でグループディスカッションを行い、学生からの提言として地域に還元する予定である。
持続可能な環境立島
柏島はその海の美しさをはじめとした自然環境学ローズアップされる傾向が強いが、そこで生じている様々な問題にも目を向けて欲しい。
漁船の艫(とも)でくつろぐ老夫婦、昔ながらの漁港の風景(円満堂修治氏撮影)
漁業を中心とした一次産業が低迷する中、観光資源として売り出すことで地域の活性化につなげようという考え方は間違ってはいないと思う。しかし、大勢の人や車がどっと押しかけ、地域の資源である自然環境や温かい人情が荒廃していく主要な観光地の姿を見るにつけ、消費型の観光地の限界を見る思いがする。
光を観ると書いて「観光」という。いつまでも光り続けることが出来るよう、持続可能な環境に配慮した島づくりが今求められている。
柏島での現地講義および座談会は一般の方の参加を募集しています。関心のある方は黒潮実感センター0880-62-8022までご連絡下さい。
柏島海中散歩
海の掃除屋さん
アカエソのクリーニングをするホンソメワケベラ
見るからにどう猛そうな顔をしたアカエソ。大きな口と多数の鋭い歯で小魚を捕らえて食べる魚食性の魚である。この魚の歯は魚を捕らえるのに実にうまくできている。それぞれの歯は口の内側には容易に倒れるが、外側には倒れない「蝶番」構造をしている。
そのため一度くわえられた餌はのどの奥方向にのみ推し進められる。そのどう猛な魚のえらに顔をつっこんでいるのはホンソメワケベラ。紺と白のストライプ模様が印象的なこの魚、様々な魚の体表についた寄生虫や口の中の食べ残しなどを餌にしている。掃除してもらうエソは気持ちよさそうにじっとしていて、この魚を食べることはない。
(センター長・神田 優)
進む「柏島プロジェクト」

柏島の児童の思いが詰まった立て看板(円満堂修治氏撮影写真はいずれも大月町柏島)
高知県の西南端に位置する周囲3.9kmの柏島周辺海域には広範囲に造礁サンゴ群が広がり、日本最多の一千種を超える魚たちが生息している。希少な魚類も多く見られることから近年ダイビングの人気スポットともなり、県内外から多くのダイバーやレジャー客が訪れるようになった。しかしそれに従い、海中環境が荒廃したり、漁民とダイバーとの紛争(現在は沈静化した)、レジャー客による違法駐車やゴミの不法投棄など様々な問題が生じてきた。

お盆のころの柏島キャンプ場付近。道路上も違法駐車だらけ

分別されずに不法投棄されたゴミ
この研究成果は高知大学の共通講義「土佐の海の環境学(通称柏島学)」として学生に還元している。これまで成果を元にした教科書の作成や海中映像の教材作成およびシンポジウムなども開催してきた。当初は高知大学での講義主体であったが、平成十七年より受講生が座学のみならず、島に来て島の自然と暮らしを実感するフィールド実習も行っている。
今年からは高大連携授業としてリニューアルし、県内高等学校の生徒も参加する形態をとることになり、八月二十三日から二十八日までの六日間開催する。内二十五日から二十七日までの三日間は柏島でのフィールド実習となる。
講義では柏島の海洋生物の多様性とそれを支える海の環境について、自然科学の側面からの講義をおこない、そのあとそのようなすばらしい環境の柏島で、今どのような問題が起こっているのかを社会科学的側面からみていく。海の保全や管理をめぐる現在の制度や法律の考え方などについて、法学的観点から検討する。
また柏島で起きている人と環境をめぐる様々な問題点をどう解決していくか、柏島の海の経済的価値をどう評価し、生物多様性の保全や地域社会の維持・発展をどんな観点で進めていくべきか経済学的側面から考える。
体験、実感、提言
現地では柏島の海のすばらしさをシュノーケリング実習で体験実感し、かつ座学で学んだ様々な問題について、島内を学生らが歩き調べることで実感する。そして地域住民と膝をつき合わせて討論するような座談会(パネルディスカッション)も開催する。今年のテーマは「柏島の保全と活性化―外からの視点、内からの視点―」である。柏島のもつ自然環境や人情のすばらしさとそこで起こっている問題について、外からの視点としての学生らの意見と、内の視点からとしての島の住民の意見をお互い出し合う中で、解決策を見いだしていきたいと考えている。
授業最終日にはこれまでの講義や体験、座談会での内容をもとに、学生らが、ワークショップ形式でグループディスカッションを行い、学生からの提言として地域に還元する予定である。
持続可能な環境立島
柏島はその海の美しさをはじめとした自然環境学ローズアップされる傾向が強いが、そこで生じている様々な問題にも目を向けて欲しい。

漁船の艫(とも)でくつろぐ老夫婦、昔ながらの漁港の風景(円満堂修治氏撮影)
漁業を中心とした一次産業が低迷する中、観光資源として売り出すことで地域の活性化につなげようという考え方は間違ってはいないと思う。しかし、大勢の人や車がどっと押しかけ、地域の資源である自然環境や温かい人情が荒廃していく主要な観光地の姿を見るにつけ、消費型の観光地の限界を見る思いがする。
光を観ると書いて「観光」という。いつまでも光り続けることが出来るよう、持続可能な環境に配慮した島づくりが今求められている。
柏島での現地講義および座談会は一般の方の参加を募集しています。関心のある方は黒潮実感センター0880-62-8022までご連絡下さい。
柏島海中散歩
海の掃除屋さん
アカエソのクリーニングをするホンソメワケベラ
見るからにどう猛そうな顔をしたアカエソ。大きな口と多数の鋭い歯で小魚を捕らえて食べる魚食性の魚である。この魚の歯は魚を捕らえるのに実にうまくできている。それぞれの歯は口の内側には容易に倒れるが、外側には倒れない「蝶番」構造をしている。

(センター長・神田 優)
更新:
諒太
/2009年 01月 06日 17時 13分