2013年3月2日 高知新聞朝刊 おかげさまで10周年
おかげさまで10周年
本連載もいよいよ最終章を書く日が近づいてきた。2007年4月から6年もの長きにわたって続けてこられたのも、ひとえに読者の皆さまからのご支援のたまものと心より感謝いたします。
ゼロからのスタート
黒潮実感センター誕生の契機となったのは、1996年、高知大学が柏島に海洋生物の教育研究施設をつくる計画が持ちあがったのが事の発端であった。しかし諸事情により実現しなかった。
当時大学院博士課程を修了し、高知大と高知医大で非常勤講師をしていた私は、大学1年生の時から柏島をフィールドにダイビングや研究活動を行い、柏島に非常に愛着があったこともあり、「大学の施設ができなくても柏島の価値に変わりはない。それならば民間もしくは県立、町立で海の教育研究施設を造ってはどうか」と1997年11月に提案し、翌年4月に単身柏島に移住し活動を開始した。当時まだ中学校として機能していた旧柏島中学校の空き教室を大月町のご厚意で貸していただき、ここに「黒潮実感センター設立準備室」を構えた。
設立準備室といっても職員は私1人。予算などない、財政的にも何の後ろ盾もない状態からのスタートだった。柏島に移住してからの私の収入源は柏島でのダイビングガイドと高知大、高知医大での非常勤講師という本当にわずかなものであった。生活するのにも苦労する状況で活動費などあるはずもない。そんな中、大学の恩師でこの春定年退職を迎えられる高知大学の山岡耕作教授と現愛媛大学学長の柳澤康信教授がポケットマネーで15万円ずつカンパし、当面の活動資金として供出してくださった。
柏島に移ったものの空き教室にはインターネットの回線もなく、また当時私が使っていたパソコンではインターネットに接続する機能すらなかった。この環境を見かねて柏島中学校の田中農三校長は、まだ出会って1〜2カ月の私に「商売道具がなかったら商売あがったりやないか」と、これでパソコンを買えとポケットマネーから30万円も出してくださった。うれしくて涙が出た。
ダイビングガイドで主な生計を立てていたが、冬から春にかけてはお客もいなくて収入がなくなる。その年の冬をどうやって越そうか途方に暮れていた年末、田中校長が「神田優越冬資金カンパ」と書いた茶封筒に、教職員の名前を書き、「田中農三100、000円」と書き、お金をいれて職員室に回すよう教頭先生に指示された。柏島中学校の先生方からもカンパを頂き、その年を無事乗り越えることができた。
当時はまさしく「かすみを食って」生活していたが、このように非常に多くの方々の応援を頂けたので、それに応えるべくさらにがんばらねばと活動に力を入れた。

田中農三校長からのカンパで購入したパソコンMac G3
環境教育に軸足を
柏島中学校では部屋を提供する代わりに、中学生の環境教育を担当してほしいと校長先生から要請された。今から15年も前、環境教育などまだ海のものとも山のものともわからないような手探りの状況であったが、地域の海の環境のすばらしさをわかりやすく伝えることが自分のできる環境教育だと考え、座学や体験学習を行った。
黒潮実感センターは「島がまるごと博物館」のコンセプトの下、海のフィールドミュージアムとしての役割を果たそうと、地域に根ざした調査研究を行い、その成果を学校教育や生涯学習に生かすべく、環境教育に軸足を置き活動を開始した。黒潮実感センターの活動目標である「持続可能な里海づくり」の実現に向けて、地域資源の掘り起こしを行い、その資源を長期的に利活用するための保全活動をしてきた。その中で地域に存在する課題と向き合い、一つ一つ解決すべく努力してきた。環境の保全と豊かな暮らしの調和が目指すべきゴールである。
こうして高知のはしっこで行っている活動は、次第次第に全国に知られるようになっていった。

第1回子どもサマースクールのシュノーケリング体験
はしっこルネッサンス
本日3月2日、黒潮実感センターの法人化10周年記念シンポジウム「はしっこシンポ」を高知市文化プラザかるぽーとで開催する。パネルディスカッションにはデザイナーの梅原真さん、仁淀ブルーの名付け親で有名な写真家、高橋宣之さん、環境省自然ふれあい室長の堀上勝さん、大月小学校長の鎌田勇人先生ら多彩なメンバーが登壇する。
黒潮実感センターは1998年に大月町柏島で活動を開始し、今年で15年目を迎える。2002年にNPO法人として認定されて、おかげさまで昨年法人化10周年を無事迎えることができた。今回これを記念し、これまでお世話になった多くの方々に感謝の気持ちを込めて、10年間の活動を報告すると同時に、これから先の10年のビジョンをお話ししたい。
「はしっこ」と聞くと皆さんはどのようなイメージをお持ちになるでしょう?へき地の離島や半島、あるいは中山間地のような場所を想像され、過疎や少子高齢化などの問題を抱え、モノも情報もなかなか来ない、どちらかというとネガティブなイメージをお持ちでしょうか?
あるいは豊かな自然に、豊かな恵み、古い伝統や文化が今なお息づく日本の原風景のような場所を想像されるでしょうか?
3・11以降、大量のエネルギーを使用した大量生産、大量消費、大量廃棄で成り立つ現在の暮らしに違和感を持ち、人と人、人と自然とのつながりを求める人が今、増えているように感じます。
はしっこルネッサンス。「はしっこ」を「末端」ではなく「先端」、「前衛」と捉え、日本の「はしっこ」に残された豊かな自然や文化、古来より人々が営んできた持続可能な社会システムをもう一度見直し、「はしっこ」から日本のあしたを見つめたいと思います。多くの方のご参加をお待ちしています。

四国のはしっこ柏島
本連載もいよいよ最終章を書く日が近づいてきた。2007年4月から6年もの長きにわたって続けてこられたのも、ひとえに読者の皆さまからのご支援のたまものと心より感謝いたします。
ゼロからのスタート
黒潮実感センター誕生の契機となったのは、1996年、高知大学が柏島に海洋生物の教育研究施設をつくる計画が持ちあがったのが事の発端であった。しかし諸事情により実現しなかった。
当時大学院博士課程を修了し、高知大と高知医大で非常勤講師をしていた私は、大学1年生の時から柏島をフィールドにダイビングや研究活動を行い、柏島に非常に愛着があったこともあり、「大学の施設ができなくても柏島の価値に変わりはない。それならば民間もしくは県立、町立で海の教育研究施設を造ってはどうか」と1997年11月に提案し、翌年4月に単身柏島に移住し活動を開始した。当時まだ中学校として機能していた旧柏島中学校の空き教室を大月町のご厚意で貸していただき、ここに「黒潮実感センター設立準備室」を構えた。
設立準備室といっても職員は私1人。予算などない、財政的にも何の後ろ盾もない状態からのスタートだった。柏島に移住してからの私の収入源は柏島でのダイビングガイドと高知大、高知医大での非常勤講師という本当にわずかなものであった。生活するのにも苦労する状況で活動費などあるはずもない。そんな中、大学の恩師でこの春定年退職を迎えられる高知大学の山岡耕作教授と現愛媛大学学長の柳澤康信教授がポケットマネーで15万円ずつカンパし、当面の活動資金として供出してくださった。
柏島に移ったものの空き教室にはインターネットの回線もなく、また当時私が使っていたパソコンではインターネットに接続する機能すらなかった。この環境を見かねて柏島中学校の田中農三校長は、まだ出会って1〜2カ月の私に「商売道具がなかったら商売あがったりやないか」と、これでパソコンを買えとポケットマネーから30万円も出してくださった。うれしくて涙が出た。
ダイビングガイドで主な生計を立てていたが、冬から春にかけてはお客もいなくて収入がなくなる。その年の冬をどうやって越そうか途方に暮れていた年末、田中校長が「神田優越冬資金カンパ」と書いた茶封筒に、教職員の名前を書き、「田中農三100、000円」と書き、お金をいれて職員室に回すよう教頭先生に指示された。柏島中学校の先生方からもカンパを頂き、その年を無事乗り越えることができた。
当時はまさしく「かすみを食って」生活していたが、このように非常に多くの方々の応援を頂けたので、それに応えるべくさらにがんばらねばと活動に力を入れた。

田中農三校長からのカンパで購入したパソコンMac G3
環境教育に軸足を
柏島中学校では部屋を提供する代わりに、中学生の環境教育を担当してほしいと校長先生から要請された。今から15年も前、環境教育などまだ海のものとも山のものともわからないような手探りの状況であったが、地域の海の環境のすばらしさをわかりやすく伝えることが自分のできる環境教育だと考え、座学や体験学習を行った。
黒潮実感センターは「島がまるごと博物館」のコンセプトの下、海のフィールドミュージアムとしての役割を果たそうと、地域に根ざした調査研究を行い、その成果を学校教育や生涯学習に生かすべく、環境教育に軸足を置き活動を開始した。黒潮実感センターの活動目標である「持続可能な里海づくり」の実現に向けて、地域資源の掘り起こしを行い、その資源を長期的に利活用するための保全活動をしてきた。その中で地域に存在する課題と向き合い、一つ一つ解決すべく努力してきた。環境の保全と豊かな暮らしの調和が目指すべきゴールである。
こうして高知のはしっこで行っている活動は、次第次第に全国に知られるようになっていった。

第1回子どもサマースクールのシュノーケリング体験
はしっこルネッサンス
本日3月2日、黒潮実感センターの法人化10周年記念シンポジウム「はしっこシンポ」を高知市文化プラザかるぽーとで開催する。パネルディスカッションにはデザイナーの梅原真さん、仁淀ブルーの名付け親で有名な写真家、高橋宣之さん、環境省自然ふれあい室長の堀上勝さん、大月小学校長の鎌田勇人先生ら多彩なメンバーが登壇する。
黒潮実感センターは1998年に大月町柏島で活動を開始し、今年で15年目を迎える。2002年にNPO法人として認定されて、おかげさまで昨年法人化10周年を無事迎えることができた。今回これを記念し、これまでお世話になった多くの方々に感謝の気持ちを込めて、10年間の活動を報告すると同時に、これから先の10年のビジョンをお話ししたい。
「はしっこ」と聞くと皆さんはどのようなイメージをお持ちになるでしょう?へき地の離島や半島、あるいは中山間地のような場所を想像され、過疎や少子高齢化などの問題を抱え、モノも情報もなかなか来ない、どちらかというとネガティブなイメージをお持ちでしょうか?
あるいは豊かな自然に、豊かな恵み、古い伝統や文化が今なお息づく日本の原風景のような場所を想像されるでしょうか?
3・11以降、大量のエネルギーを使用した大量生産、大量消費、大量廃棄で成り立つ現在の暮らしに違和感を持ち、人と人、人と自然とのつながりを求める人が今、増えているように感じます。
はしっこルネッサンス。「はしっこ」を「末端」ではなく「先端」、「前衛」と捉え、日本の「はしっこ」に残された豊かな自然や文化、古来より人々が営んできた持続可能な社会システムをもう一度見直し、「はしっこ」から日本のあしたを見つめたいと思います。多くの方のご参加をお待ちしています。

四国のはしっこ柏島
投稿:
Kanda
/2013年 09月 03日 19時 13分