2012年9月28日 高知新聞朝刊 砂の中のハンター
砂の中のハンター

直径50a以上にもなるヤツデスナヒトデ
柏島に入るすぐ手前にある竜の浜は、湾内に向かって北西側に開口しており、夏場低気圧によって太平洋側の外海で波が高くてもほとんど影響を受けないため、シュノーケリングやダイビングにはもってこいの場所だ。竜の浜の海底は縁辺部が転石帯で中心部には砂地が広がっている。転石帯には広範囲にわたりシコロサンゴが広がっている。多くの魚たちでにぎやかなのは転石帯やサンゴのあるところで、色とりどりのベラやスズメダイ、チョウチョウウオの仲間などが人を怖(お)じることなく泳ぎ回っている。
サマースクールなどで子どもたちのシュノーケリングを行うとき、「石のあるところとサンゴのあるところ、それから砂地ではどんな生き物がいるか観察してみよう」と連れて行く。「サンゴや石のところはいっぱい魚がいておもしろいけど、砂地のところにはほとんど生き物がいなくてつまらない」と子どもたちは言う。確かに砂地には魚たちはあまりいない。いても結構地味な色合いのものばかりである。白い砂地の上で鮮やかな色をしていると、捕食者から狙われやすい。岩場と違い隠れる場所もないので砂地で生活する生き物は、砂そっくりの色や、影ができにくいように扁平(へんぺい)な形をしたり、砂に潜って隠れたりするものが多い。そのため目があまり慣れていない子どもたちには、魚なんかほとんどいないと映るようだ。
一見静かに見える砂地だが、よく見るといろいろな生き物が隠れている。砂に身体を隠し、目だけ出して小魚が来るのをじっと待っているのは、アカエソやオキエソだ。彼らは小魚が近くに来ると猛ダッシュして砂から飛び出し、大きな口で魚を捕らえるハンターだ。
何もいないと思って海底付近まで潜っていくと、いきなり大きな魚が砂から飛び出して驚かされる。羽ばたくようにして逃げさっていくのはアカエイだ。通常は目だけ出して身体を砂の中に埋めてじっとしている。大きなものだと1b近くにもな
る。砂地に大きなクレーターのような穴があちこち開いているのは、アカエイが砂の中の貝類を食べた跡だ。
天狗のうちわ?

ヤツデスナヒトデが餌を食べ移動した跡(中央がくぼんでいる)
アカエイの食べ跡のクレーターも知らなければただの凹凸でしかないが、何の変哲も無いように見える砂地にも、生き物の残したフィールドサインが残されている。
砂地に巨大なモミジか天狗(てんぐ)のうちわのような跡がうっすら残っていることがある。その大きさは直径50〜60aもある。実はこれ、ヤツデスナヒトデが残した跡である。このヒトデは腕が7〜10本もあり非常に巨大である。柏島で見るものは腕が9本のものが多い。
この跡があったからと言って必ずその下に潜んでいるとは限らない。見分けるにはこつがある。同じ「天狗のうちわ」でも全体がへこんでいるところにはいない。いくつか跡がある中で、真ん中が少し盛り上がっている「うちわ」の下にヒトデはいる。手であおいで砂を払うと出てくる。ひっくり返すと大きく広げた腕を素早く閉じて、流れに身を任せて横倒しになる。するとそこから一本、また一本と腕を巧みに動かして腹ばいになり腕を広げる。腕の裏の溝からはたくさんの管足が伸び、グニョグニョと動きまわっている。本種はモミジガイ目に属しており、他のヒトデと違い管足の先に吸盤を持たない。その代わり管足をシャベルのように使い、砂をかきだし穴を掘り、垂直方向に音も無く静かに沈んでいく。砂から引き出したヤツデスナヒトデは一見すると全く動いていないように見えるが、音もなく見る見るうちに砂中に沈み込んでいく。沈み初めて2分もすると完全に砂に埋もれてしまうほどの早さである。

砂から引き上げて引っくり返すと、すぐに腕を閉じて横倒しになる

一本一本足を伸ばし腹ばいに戻る

音もなく砂に沈み込んでいく
音も無く忍び寄る

腕の下にある管足で砂の上を滑るように移動する
ヒトデ類は盤と呼ばれる腕の中心部の裏側に口がある。ヤツデスナヒトデは猛烈な肉食性で、貝類や、ブンブク、カシパンというウニの仲間、さらには同種の小型個体までも襲って食べる。
餌を探す際にはこれまた音もなく、砂の上を滑るように移動し、砂の中にいる餌を感知すると、餌の真上に盤が来るように定位し、口周辺の管足で砂を掘り、でてきた餌を飲み込む。砂の中に潜りながら移動することはせず、食事が済むと中身がなくなった殻を砂中に残し、再び砂の上に浮上し、音もなく滑るように移動しながら餌を探し歩く。気持ち悪いのは長い腕をクネクネ動かしながら歩くのではなく、腕は動かさずその形のまま管足で砂の上を滑るように移動するのである。ヤツデスナヒトデはヒトデ界きっての俊足ランナーである。前段で述べた全体がへこんだ跡というのは、餌を食べ終えて移動した跡なのでその下にはいないのである。
一見静かで動きがないように見える砂地でも、日夜このような食う、食われるのドラマが繰り広げられている。皆さんが海に潜った際には、ぜひ目をこらして生き物が出しているフィールドサインを見つけてほしい。これらが分かるようになると、砂地はとても魅力的なフィールドになるはずだ。

ヤツデスナヒトデに食べられ殻だけになったオカメブンブク(ウニ)

直径50a以上にもなるヤツデスナヒトデ
柏島に入るすぐ手前にある竜の浜は、湾内に向かって北西側に開口しており、夏場低気圧によって太平洋側の外海で波が高くてもほとんど影響を受けないため、シュノーケリングやダイビングにはもってこいの場所だ。竜の浜の海底は縁辺部が転石帯で中心部には砂地が広がっている。転石帯には広範囲にわたりシコロサンゴが広がっている。多くの魚たちでにぎやかなのは転石帯やサンゴのあるところで、色とりどりのベラやスズメダイ、チョウチョウウオの仲間などが人を怖(お)じることなく泳ぎ回っている。
サマースクールなどで子どもたちのシュノーケリングを行うとき、「石のあるところとサンゴのあるところ、それから砂地ではどんな生き物がいるか観察してみよう」と連れて行く。「サンゴや石のところはいっぱい魚がいておもしろいけど、砂地のところにはほとんど生き物がいなくてつまらない」と子どもたちは言う。確かに砂地には魚たちはあまりいない。いても結構地味な色合いのものばかりである。白い砂地の上で鮮やかな色をしていると、捕食者から狙われやすい。岩場と違い隠れる場所もないので砂地で生活する生き物は、砂そっくりの色や、影ができにくいように扁平(へんぺい)な形をしたり、砂に潜って隠れたりするものが多い。そのため目があまり慣れていない子どもたちには、魚なんかほとんどいないと映るようだ。
一見静かに見える砂地だが、よく見るといろいろな生き物が隠れている。砂に身体を隠し、目だけ出して小魚が来るのをじっと待っているのは、アカエソやオキエソだ。彼らは小魚が近くに来ると猛ダッシュして砂から飛び出し、大きな口で魚を捕らえるハンターだ。
何もいないと思って海底付近まで潜っていくと、いきなり大きな魚が砂から飛び出して驚かされる。羽ばたくようにして逃げさっていくのはアカエイだ。通常は目だけ出して身体を砂の中に埋めてじっとしている。大きなものだと1b近くにもな
る。砂地に大きなクレーターのような穴があちこち開いているのは、アカエイが砂の中の貝類を食べた跡だ。
天狗のうちわ?

ヤツデスナヒトデが餌を食べ移動した跡(中央がくぼんでいる)
アカエイの食べ跡のクレーターも知らなければただの凹凸でしかないが、何の変哲も無いように見える砂地にも、生き物の残したフィールドサインが残されている。
砂地に巨大なモミジか天狗(てんぐ)のうちわのような跡がうっすら残っていることがある。その大きさは直径50〜60aもある。実はこれ、ヤツデスナヒトデが残した跡である。このヒトデは腕が7〜10本もあり非常に巨大である。柏島で見るものは腕が9本のものが多い。
この跡があったからと言って必ずその下に潜んでいるとは限らない。見分けるにはこつがある。同じ「天狗のうちわ」でも全体がへこんでいるところにはいない。いくつか跡がある中で、真ん中が少し盛り上がっている「うちわ」の下にヒトデはいる。手であおいで砂を払うと出てくる。ひっくり返すと大きく広げた腕を素早く閉じて、流れに身を任せて横倒しになる。するとそこから一本、また一本と腕を巧みに動かして腹ばいになり腕を広げる。腕の裏の溝からはたくさんの管足が伸び、グニョグニョと動きまわっている。本種はモミジガイ目に属しており、他のヒトデと違い管足の先に吸盤を持たない。その代わり管足をシャベルのように使い、砂をかきだし穴を掘り、垂直方向に音も無く静かに沈んでいく。砂から引き出したヤツデスナヒトデは一見すると全く動いていないように見えるが、音もなく見る見るうちに砂中に沈み込んでいく。沈み初めて2分もすると完全に砂に埋もれてしまうほどの早さである。

砂から引き上げて引っくり返すと、すぐに腕を閉じて横倒しになる

一本一本足を伸ばし腹ばいに戻る

音もなく砂に沈み込んでいく
音も無く忍び寄る

腕の下にある管足で砂の上を滑るように移動する
ヒトデ類は盤と呼ばれる腕の中心部の裏側に口がある。ヤツデスナヒトデは猛烈な肉食性で、貝類や、ブンブク、カシパンというウニの仲間、さらには同種の小型個体までも襲って食べる。
餌を探す際にはこれまた音もなく、砂の上を滑るように移動し、砂の中にいる餌を感知すると、餌の真上に盤が来るように定位し、口周辺の管足で砂を掘り、でてきた餌を飲み込む。砂の中に潜りながら移動することはせず、食事が済むと中身がなくなった殻を砂中に残し、再び砂の上に浮上し、音もなく滑るように移動しながら餌を探し歩く。気持ち悪いのは長い腕をクネクネ動かしながら歩くのではなく、腕は動かさずその形のまま管足で砂の上を滑るように移動するのである。ヤツデスナヒトデはヒトデ界きっての俊足ランナーである。前段で述べた全体がへこんだ跡というのは、餌を食べ終えて移動した跡なのでその下にはいないのである。
一見静かで動きがないように見える砂地でも、日夜このような食う、食われるのドラマが繰り広げられている。皆さんが海に潜った際には、ぜひ目をこらして生き物が出しているフィールドサインを見つけてほしい。これらが分かるようになると、砂地はとても魅力的なフィールドになるはずだ。

ヤツデスナヒトデに食べられ殻だけになったオカメブンブク(ウニ)
投稿:
Kanda
/2012年 12月 05日 12時 00分