2012年11月24日 高知新聞朝刊 牧野富太郎博士と柏島
牧野富太郎博士と柏島

薄紫の花が美しいソナレノギク
柏島の秋は短い。ついこの間まであんなに暑かった日差しが、あっという間に寒い北西の風へとかわっていく。その短い秋を惜しむかのように、柏島周辺は色とりどりの花々が沿道に咲き誇り、秋のお花見が楽しめる。その多くがキク科の植物である。
10月中旬から咲き始めるのが小さな黄色の花を付けるアゼトウナ。赤褐色の崖に張り付くようにして生えていて、ひときわ目を引く。柔らかくみずみずしい葉っぱとともに殺風景な岩肌にまさしく花を添えている。
次に咲き始めるのがソナレノギク。咲き始めほんのり薄紫色をした上品な花を咲かせ、次第次第に白っぽく変化してゆく。花は直径4〜4・5aもあり見応えがあ
る。その後に続くのがツワブキ。春先柔らかい新芽を島の人は散歩がてら摘みにくる。炊いてももちろんおいしいが、これをかす漬けにしたら香りもあって酒のあてには最高だ。秋は少し薄暗い日陰にあっても原色の黄色い花が目を引く。柏島周辺の道はさながらツワブキ街道のようである。
11月、ツワブキが満開時期を迎えるころ、少し遅れてアシズリノジギクが咲き始める。黄色のツワブキと白いアシズリノジギクのコラボは見応え十分である。ちょうど今が満開だ。道沿いやのり面いっぱいに広がり、甘く何ともいえないいい匂いが辺り一面に広がっている。

アゼトウナ。頭花の直径は1.2aほどで葉に比べて大きい
「あんなもん初めて」
平成24年は高知県が生んだ日本の植物学の父・牧野富太郎博士の生誕150年を迎え、県内外各地で記念イベントが開催されている。今日11月24日、明日25日は大月町でも「牧野富太郎の道を歩く」と題したイベントが開かれる。パンフレットには1953年12月、牧野博士92歳の時、大泉邸でのインタビューで語られた言葉が記されている。「土佐は自分の国だから方々行きましたが、幡多郡はずっと一巡しました。花にも何にも珍しいのがあって、あんなもん初めて見た」。
柏島では1881(明治14)年9月と1885(同18)年10月(「土佐幡多郡柏島ノ海濱」と標本に記録)牧野博士自身が採集した、キク科ネコノシタ(別名ハマグルマ)に似た植物を「オオハマグルマ」と名付けた。そして、後にネコノシタの変種として学名Wedelia prostrata var.robustaを発表した。海岸の砂地に生え、葉は卵形〜広卵形で、茎の先にたいてい三つの頭花をつける。ネコノシタは葉の感触がざらざらした猫の舌に似ており、一度触れば忘れることはないだろう。

オオハマグルマ 茎は長く地を這うように伸びる。柏島では雑草扱いだが、高知県のレッドリストではソナレノギクとともに絶滅危惧種に指定(大月町柏島=高知県立牧野植物園前田綾子氏提供)
同じキク科の植物で、牧野博士が1885年10月に柏島で採取し名前を付けたものに「ソナレノギク」がある。四国西南部にのみ分布する。ヤマジノギクの変種で、葉も大きく厚く光沢がある。ソナレノギクのソナレは「磯馴」と書き、海岸に生える植物名の接頭語の一つとして使われる。本種は柏島が基準産地になっており、柏島のシンボリックな存在である。
カシワジマツメレンゲ
1982年に発行された「ふるさと柏島」という本に、カシワジマツメレンゲという植物のことが書かれている。島の南側にある野中兼の山が築いた石堤に昔自生してたが、石堤の上にコンクリートの土手を建設したため姿を消してしまった。今では島内の家々の軒下の鉢植えに姿を見るのみとなっている。
数年前このカシワジマツメレンゲを、柏島出身で現在兵庫県にお住まいの山岡和知さんから2鉢頂いた。図鑑で調べたところカシワジマツメレンゲという名前は見当たらないので、1鉢を牧野植物園の藤川さんにお譲りし調べてもらった。ベンケイソウ科が専門の大場秀章先生(東京大学名誉教授)に同定してもらった結果は、ツメレンゲと同一とのことだった。
ただし、カシワジマツメレンゲとされたその株は、開花期に腋芽(わきめ)が伸長する特徴を持っており、正式に学名は発表されていないが、瀬戸内の一部にも生息し、中井猛之進先生がかつてカシワジマイワレンゲと呼称していたときがあったそうだ。従って、ツメレンゲではあるが、花期に腋芽が伸長する地方の型の一つということになった。
一見サボテンのようにも見える本種は、沿海地の岩場に生え、高知県西部では土佐清水市から大月町の海岸線だけにみられるそう
だ。土佐清水市に自生しているツメレンゲを見たが、土などほとんどないような、岩場の非常に厳しい環境の中でたくましく生きていた。牧野植物園からは植え戻して野生復帰させるために、栽培して増やした数多くの株を頂いた。鉢植えのカシワジマツメレンゲも確かに美しいが、やはり本来あった場所に戻してやりたいと強く思った。
やはり野に置け蓮華草

ツメレンゲ。急斜面の崖に張り付くように生えいてる。天に向かって伸びている様は力強い

鉢植えのカシワジマツメレンゲ。白い小さな花が下から上に向かって開花していく

薄紫の花が美しいソナレノギク
柏島の秋は短い。ついこの間まであんなに暑かった日差しが、あっという間に寒い北西の風へとかわっていく。その短い秋を惜しむかのように、柏島周辺は色とりどりの花々が沿道に咲き誇り、秋のお花見が楽しめる。その多くがキク科の植物である。
10月中旬から咲き始めるのが小さな黄色の花を付けるアゼトウナ。赤褐色の崖に張り付くようにして生えていて、ひときわ目を引く。柔らかくみずみずしい葉っぱとともに殺風景な岩肌にまさしく花を添えている。
次に咲き始めるのがソナレノギク。咲き始めほんのり薄紫色をした上品な花を咲かせ、次第次第に白っぽく変化してゆく。花は直径4〜4・5aもあり見応えがあ
る。その後に続くのがツワブキ。春先柔らかい新芽を島の人は散歩がてら摘みにくる。炊いてももちろんおいしいが、これをかす漬けにしたら香りもあって酒のあてには最高だ。秋は少し薄暗い日陰にあっても原色の黄色い花が目を引く。柏島周辺の道はさながらツワブキ街道のようである。
11月、ツワブキが満開時期を迎えるころ、少し遅れてアシズリノジギクが咲き始める。黄色のツワブキと白いアシズリノジギクのコラボは見応え十分である。ちょうど今が満開だ。道沿いやのり面いっぱいに広がり、甘く何ともいえないいい匂いが辺り一面に広がっている。

アゼトウナ。頭花の直径は1.2aほどで葉に比べて大きい
「あんなもん初めて」
平成24年は高知県が生んだ日本の植物学の父・牧野富太郎博士の生誕150年を迎え、県内外各地で記念イベントが開催されている。今日11月24日、明日25日は大月町でも「牧野富太郎の道を歩く」と題したイベントが開かれる。パンフレットには1953年12月、牧野博士92歳の時、大泉邸でのインタビューで語られた言葉が記されている。「土佐は自分の国だから方々行きましたが、幡多郡はずっと一巡しました。花にも何にも珍しいのがあって、あんなもん初めて見た」。
柏島では1881(明治14)年9月と1885(同18)年10月(「土佐幡多郡柏島ノ海濱」と標本に記録)牧野博士自身が採集した、キク科ネコノシタ(別名ハマグルマ)に似た植物を「オオハマグルマ」と名付けた。そして、後にネコノシタの変種として学名Wedelia prostrata var.robustaを発表した。海岸の砂地に生え、葉は卵形〜広卵形で、茎の先にたいてい三つの頭花をつける。ネコノシタは葉の感触がざらざらした猫の舌に似ており、一度触れば忘れることはないだろう。

オオハマグルマ 茎は長く地を這うように伸びる。柏島では雑草扱いだが、高知県のレッドリストではソナレノギクとともに絶滅危惧種に指定(大月町柏島=高知県立牧野植物園前田綾子氏提供)
同じキク科の植物で、牧野博士が1885年10月に柏島で採取し名前を付けたものに「ソナレノギク」がある。四国西南部にのみ分布する。ヤマジノギクの変種で、葉も大きく厚く光沢がある。ソナレノギクのソナレは「磯馴」と書き、海岸に生える植物名の接頭語の一つとして使われる。本種は柏島が基準産地になっており、柏島のシンボリックな存在である。
カシワジマツメレンゲ
1982年に発行された「ふるさと柏島」という本に、カシワジマツメレンゲという植物のことが書かれている。島の南側にある野中兼の山が築いた石堤に昔自生してたが、石堤の上にコンクリートの土手を建設したため姿を消してしまった。今では島内の家々の軒下の鉢植えに姿を見るのみとなっている。
数年前このカシワジマツメレンゲを、柏島出身で現在兵庫県にお住まいの山岡和知さんから2鉢頂いた。図鑑で調べたところカシワジマツメレンゲという名前は見当たらないので、1鉢を牧野植物園の藤川さんにお譲りし調べてもらった。ベンケイソウ科が専門の大場秀章先生(東京大学名誉教授)に同定してもらった結果は、ツメレンゲと同一とのことだった。
ただし、カシワジマツメレンゲとされたその株は、開花期に腋芽(わきめ)が伸長する特徴を持っており、正式に学名は発表されていないが、瀬戸内の一部にも生息し、中井猛之進先生がかつてカシワジマイワレンゲと呼称していたときがあったそうだ。従って、ツメレンゲではあるが、花期に腋芽が伸長する地方の型の一つということになった。
一見サボテンのようにも見える本種は、沿海地の岩場に生え、高知県西部では土佐清水市から大月町の海岸線だけにみられるそう
だ。土佐清水市に自生しているツメレンゲを見たが、土などほとんどないような、岩場の非常に厳しい環境の中でたくましく生きていた。牧野植物園からは植え戻して野生復帰させるために、栽培して増やした数多くの株を頂いた。鉢植えのカシワジマツメレンゲも確かに美しいが、やはり本来あった場所に戻してやりたいと強く思った。
やはり野に置け蓮華草

ツメレンゲ。急斜面の崖に張り付くように生えいてる。天に向かって伸びている様は力強い

鉢植えのカシワジマツメレンゲ。白い小さな花が下から上に向かって開花していく
投稿:
Kanda
/2012年 12月 05日 13時 35分