2008年04月11日(金) 高知新聞夕刊 貝殻を捨てた巻貝
大月発くろしお便り(黒潮実感センター)
貝殻を捨てた巻き貝

ニシキウミウシ(約10a)と、それを宿主にするウミウシカクレエビ(約1a)(アクアス提供) 海のナメクジ
四月、桜の花も満開の頃、海の中はまだ冬である。現在の柏島の水温は約17℃。年間最低水温である。冬から春にかけては、島特有の北西の季節風が吹き荒れるので海に入れる機会は少ない。また低水温のため夏や秋のように色とりどりの魚が乱舞するようなことはない。そんな中小さいながらもひときわ目を引くのがウミウシたちだ。
イガグリウミウシ(イロウミウシ科)。潮通しの良い浅場のさんご礁域で普通に見られる。新作和菓子のようだ。約3a(アクアス提供)
ウミウシは英語でsea slug(海のナメクジ)と呼ばれる。春先、海藻が生えている磯や岸壁、あるいは海が荒れた翌日には浜に打ち上げられているぐにゃぐにゃしたアメフラシを見かけることも多いことと思う。たしかに巨大なナメクジのようだ。しかし、グロテスクなものもいるが宝石のように美しくかわいいものもたくさんいて、昨今スキューバダイビングではウミウシウォッチングなるジャンルもできている。
マダライロウミウシ(イロウミウシ科)サンゴ礁の浅場でややまれに見られる。約6a(ポレポレダイブ提供)
ウルトラマンを乗せて
比較的大きなウミウシの仲間で体長十センチメートルほどのニシキウミウシは、オレンジ色を基調に青紫色の縁取りも鮮やかなウミウシ。このウミウシをよく観察してみると、ウルトラマンのような顔つきをしたエビがいることがある。ウミウシカクレエビだ。
体長は一〜二センチメートルほど。ウミウシの中には毒を持つものやまずいものが多く、魚などに捕食される危険性はほとんど無いため、エビにとっては絶好の隠れ家となる。またこのエビはウミウシが排泄する糞を餌にしている。エビにとってはメリットがあるがウミウシにとってのメリットはなく、この関係は片利共生と呼ばれる。ウミウシにとってはいつも背中に乗られていてやっかいなことだろう。
ヒュプセロドーリス・ゼフィラ(まだ和名がない。イロウミウシ科)稀種。約3a(ファニーダイブ提供)
他人のそら似
触角だけでなく身体からいろいろな突起を出すウミウシも多いことから、ん?これもウミウシ?と思う生き物がいる。柔らかいサンゴの一種トゲトサカなどの表面にくっついているのはテンロクケボリ。触角の中ほどにすごく控えめな小さな黒い眼が見える。
テンロクケボリ(ウミウサギガイ科)。トゲトサカに着生しており、外套膜は背景に紛れるような色や形となっている。約1a(ポレポレダイブ提供)身体の表面を優しくそーと触れると美しい外套膜(がいとうまく)が収縮して下から貝殻が見えてくる。ウミウシではなく巻き貝の一種。他人のそら似とは言うものの、ウミウシも元はといえば巻き貝だったからルーツは同じである。
重い貝殻を脱ぎ捨てて身軽になることを選択したことでは、カタツムリとナメクジの関係と似ている。
テンロクケボリの外套膜が収縮して貝殻が見えている状態(ポレポレダイブ提供)
海の宝石を探して
広い海の中でわずか一センチ前後の小さなウミウシやカクレエビ、貝なんか見て何が楽しいんだって思われるかもしれない。しかし、水中カメラのマクロレンズ越しに覗く小さな世界は驚きの連続である。最近ウミウシはよく海の宝石にたとえられるが、様々な姿や色のバリエーションを見ると本当にその通りだと思う。
ホソテンロクケボリ(ウミウサギガイ科)テンロクケボリ同様外套膜は保護色となっている。細長く見える触角の中ほどに小さな目がある。約1a(ポレポレダイブ提供)
これまで大型回遊魚や泳ぎ回る美しい熱帯魚を見るために、フィンを使って魚のように泳いでいたダイバーが、最近では高価なカメラやビデオを持ち海底をはいずり回っている光景をよく目にする。おもしろいもので見る対象に合わせてダイバーのナメクジ化が進んでいるのかもしれない。
(センター長・神田 優)
貝殻を捨てた巻き貝

ニシキウミウシ(約10a)と、それを宿主にするウミウシカクレエビ(約1a)(アクアス提供)
四月、桜の花も満開の頃、海の中はまだ冬である。現在の柏島の水温は約17℃。年間最低水温である。冬から春にかけては、島特有の北西の季節風が吹き荒れるので海に入れる機会は少ない。また低水温のため夏や秋のように色とりどりの魚が乱舞するようなことはない。そんな中小さいながらもひときわ目を引くのがウミウシたちだ。

イガグリウミウシ(イロウミウシ科)。潮通しの良い浅場のさんご礁域で普通に見られる。新作和菓子のようだ。約3a(アクアス提供)
ウミウシは英語でsea slug(海のナメクジ)と呼ばれる。春先、海藻が生えている磯や岸壁、あるいは海が荒れた翌日には浜に打ち上げられているぐにゃぐにゃしたアメフラシを見かけることも多いことと思う。たしかに巨大なナメクジのようだ。しかし、グロテスクなものもいるが宝石のように美しくかわいいものもたくさんいて、昨今スキューバダイビングではウミウシウォッチングなるジャンルもできている。

マダライロウミウシ(イロウミウシ科)サンゴ礁の浅場でややまれに見られる。約6a(ポレポレダイブ提供)
ウルトラマンを乗せて
比較的大きなウミウシの仲間で体長十センチメートルほどのニシキウミウシは、オレンジ色を基調に青紫色の縁取りも鮮やかなウミウシ。このウミウシをよく観察してみると、ウルトラマンのような顔つきをしたエビがいることがある。ウミウシカクレエビだ。
体長は一〜二センチメートルほど。ウミウシの中には毒を持つものやまずいものが多く、魚などに捕食される危険性はほとんど無いため、エビにとっては絶好の隠れ家となる。またこのエビはウミウシが排泄する糞を餌にしている。エビにとってはメリットがあるがウミウシにとってのメリットはなく、この関係は片利共生と呼ばれる。ウミウシにとってはいつも背中に乗られていてやっかいなことだろう。

ヒュプセロドーリス・ゼフィラ(まだ和名がない。イロウミウシ科)稀種。約3a(ファニーダイブ提供)
他人のそら似
触角だけでなく身体からいろいろな突起を出すウミウシも多いことから、ん?これもウミウシ?と思う生き物がいる。柔らかいサンゴの一種トゲトサカなどの表面にくっついているのはテンロクケボリ。触角の中ほどにすごく控えめな小さな黒い眼が見える。

テンロクケボリ(ウミウサギガイ科)。トゲトサカに着生しており、外套膜は背景に紛れるような色や形となっている。約1a(ポレポレダイブ提供)
重い貝殻を脱ぎ捨てて身軽になることを選択したことでは、カタツムリとナメクジの関係と似ている。

テンロクケボリの外套膜が収縮して貝殻が見えている状態(ポレポレダイブ提供)
海の宝石を探して
広い海の中でわずか一センチ前後の小さなウミウシやカクレエビ、貝なんか見て何が楽しいんだって思われるかもしれない。しかし、水中カメラのマクロレンズ越しに覗く小さな世界は驚きの連続である。最近ウミウシはよく海の宝石にたとえられるが、様々な姿や色のバリエーションを見ると本当にその通りだと思う。

ホソテンロクケボリ(ウミウサギガイ科)テンロクケボリ同様外套膜は保護色となっている。細長く見える触角の中ほどに小さな目がある。約1a(ポレポレダイブ提供)
これまで大型回遊魚や泳ぎ回る美しい熱帯魚を見るために、フィンを使って魚のように泳いでいたダイバーが、最近では高価なカメラやビデオを持ち海底をはいずり回っている光景をよく目にする。おもしろいもので見る対象に合わせてダイバーのナメクジ化が進んでいるのかもしれない。
(センター長・神田 優)
更新:
諒太
/2009年 01月 06日 17時 27分