2008年05月09日(金) 高知新聞夕刊 森の恵み生かす漁師
大月発くろしお便り(黒潮実感センター)
森の恵み生かす漁師

養殖いけすから真水プールに移されるカンパチ(写真はいずれも大月町柏島) 森は海の恋人
宮城県の畠山重篤氏の運動がきっかけとなり「森は海の恋人」をスローガンに、漁師が川の源流域の山に広葉樹を植える活動が全国各地に広がりつつある。
山に広葉樹を植えることで山の保水力を高め、山から川を通じて豊富な栄養分が海に流れ込み、植物プランクトンの増殖を促し、カキや海藻類、魚類を育むことにつながるというものである。
その点、柏島の海は「恋人」に恵まれ、緑豊かな広葉樹の森にはぐくまれ、浅瀬にはテングサやフノリ、イワノリなど漁業資源としても重要な海藻類や、魚やアオリイカの産卵場所にもなるホンダワラ類が豊富に繁茂していた。ところがここ数年、海藻の森(藻場)が消えつつある。これが磯焼けといわれる現象である。
藻場が無くなると藻場で育つ魚がいなくなり、トコブシやサザエなどの有用魚介類もいなくなる。磯焼けは山からの豊かな栄養分が供給されないことや、温暖化に伴う海水温の上昇がその要因であるといわれている。
山の真水を利用
柏島では一本釣り漁業だけでなく、湾内でマダイやカンパチ、クロマグロなどの養殖が営まれている。養殖生け簀で魚をたくさん飼っていると皮膚に寄生虫が付くことがある。マダイのような鱗が大きく堅いものではそれほどではないが、カンパチでは特に顕著である。
ホースから真水をかけて寄生虫を落とす
柏島では古くから寄生虫を落とすのに薬品を使わず、山から流れ落ちる真水を利用してきた。柏島の対岸に位置する大月半島の山の斜面に、「いくさ水」という谷水が流れ落ちる場所がある。地元の漁師はこの場所に貯水槽を作り、そこからホースを海まで引っ張り、船の船艙に汲み入れ、養殖生け簀まで運ぶ。
カンパチの入った養殖生け簀の一角にキャンバス地で作ったプールを張り、そこに船艙に入れて持ってきた真水を汲み入れ準備完了。生け簀の網を絞り、魚を一カ所に集め、網で取り上げプールに入れる。カンパチは海水魚なので真水では苦しそうだが、それ以上に苦しいのは寄生虫である。寄生虫が先にダウンし魚の表面から剥がれ落ちるのを見計らい、魚が弱る前に海水に戻す。
真水に入れられたカンパチも苦しそうこのタイミングが難しい。長年の勘が頼りである。塩素消毒された水道水では魚まで死んでしまいうまくいかない。薬を使わず森の恵みである真水を活かした漁師の知恵である。
海中でも真水が沸くところに魚が集まってくるところがあるが、これも寄生虫を落とすための魚の習性だと言われている。
がけの上に設置されたタンクから海まで延びるホース
環境学習の生きた教材に
黒潮実感センターでは、これら一連の作業を子ども達の環境学習に活用している。
山に入り、谷沿いの広葉樹の森を歩き、足下の腐葉土に覆われた土の感触を実感する。これがスポンジのように水を蓄え、栄養分を供給することを学ぶ。そして、その水が養殖魚の真水消毒に使われるといった一連の漁師の知恵を学ぶ。これ以上ない生きた教材が柏島にはある。
広葉樹の森の中にある谷筋
マニュアルにあるような全国一律の同じような学習をするのではなく、地域にある素材で、地域の特性に応じた学習を行うことが大切なのだと思う。それにはまず地域から学ぶことだ。素材や機会は地域の中に山ほどあるのだから。
船から作業の様子を観察する子どもたち
柏島海中散歩
挨拶する魚
イシヨウジ
ヨウジの名が付くように細長い体の先端にさらに細長い吻が延びている。こう見えてもタツノオトシゴの親戚筋にあたり、雄が尾部ある育児嚢に卵を抱えて保護する。一夫一妻のペアを組んでおり、日中は雄雌バラバラに行動しているが、毎朝日の出直後には雌雄が身体を触れあわせながら「挨拶行動」をとる。
ヨウジウオ科、本州中部以南、インド・太平洋域に分布。サンゴ礁域の浅く平坦な砂礫底などに普通に見られる。体長15cm。
(センター長・神田 優)
森の恵み生かす漁師

養殖いけすから真水プールに移されるカンパチ(写真はいずれも大月町柏島)
宮城県の畠山重篤氏の運動がきっかけとなり「森は海の恋人」をスローガンに、漁師が川の源流域の山に広葉樹を植える活動が全国各地に広がりつつある。
山に広葉樹を植えることで山の保水力を高め、山から川を通じて豊富な栄養分が海に流れ込み、植物プランクトンの増殖を促し、カキや海藻類、魚類を育むことにつながるというものである。
その点、柏島の海は「恋人」に恵まれ、緑豊かな広葉樹の森にはぐくまれ、浅瀬にはテングサやフノリ、イワノリなど漁業資源としても重要な海藻類や、魚やアオリイカの産卵場所にもなるホンダワラ類が豊富に繁茂していた。ところがここ数年、海藻の森(藻場)が消えつつある。これが磯焼けといわれる現象である。
藻場が無くなると藻場で育つ魚がいなくなり、トコブシやサザエなどの有用魚介類もいなくなる。磯焼けは山からの豊かな栄養分が供給されないことや、温暖化に伴う海水温の上昇がその要因であるといわれている。
山の真水を利用
柏島では一本釣り漁業だけでなく、湾内でマダイやカンパチ、クロマグロなどの養殖が営まれている。養殖生け簀で魚をたくさん飼っていると皮膚に寄生虫が付くことがある。マダイのような鱗が大きく堅いものではそれほどではないが、カンパチでは特に顕著である。

ホースから真水をかけて寄生虫を落とす
柏島では古くから寄生虫を落とすのに薬品を使わず、山から流れ落ちる真水を利用してきた。柏島の対岸に位置する大月半島の山の斜面に、「いくさ水」という谷水が流れ落ちる場所がある。地元の漁師はこの場所に貯水槽を作り、そこからホースを海まで引っ張り、船の船艙に汲み入れ、養殖生け簀まで運ぶ。
カンパチの入った養殖生け簀の一角にキャンバス地で作ったプールを張り、そこに船艙に入れて持ってきた真水を汲み入れ準備完了。生け簀の網を絞り、魚を一カ所に集め、網で取り上げプールに入れる。カンパチは海水魚なので真水では苦しそうだが、それ以上に苦しいのは寄生虫である。寄生虫が先にダウンし魚の表面から剥がれ落ちるのを見計らい、魚が弱る前に海水に戻す。

真水に入れられたカンパチも苦しそう
海中でも真水が沸くところに魚が集まってくるところがあるが、これも寄生虫を落とすための魚の習性だと言われている。

がけの上に設置されたタンクから海まで延びるホース
環境学習の生きた教材に
黒潮実感センターでは、これら一連の作業を子ども達の環境学習に活用している。
山に入り、谷沿いの広葉樹の森を歩き、足下の腐葉土に覆われた土の感触を実感する。これがスポンジのように水を蓄え、栄養分を供給することを学ぶ。そして、その水が養殖魚の真水消毒に使われるといった一連の漁師の知恵を学ぶ。これ以上ない生きた教材が柏島にはある。

広葉樹の森の中にある谷筋
マニュアルにあるような全国一律の同じような学習をするのではなく、地域にある素材で、地域の特性に応じた学習を行うことが大切なのだと思う。それにはまず地域から学ぶことだ。素材や機会は地域の中に山ほどあるのだから。

船から作業の様子を観察する子どもたち
柏島海中散歩
挨拶する魚
イシヨウジ
ヨウジの名が付くように細長い体の先端にさらに細長い吻が延びている。こう見えてもタツノオトシゴの親戚筋にあたり、雄が尾部ある育児嚢に卵を抱えて保護する。一夫一妻のペアを組んでおり、日中は雄雌バラバラに行動しているが、毎朝日の出直後には雌雄が身体を触れあわせながら「挨拶行動」をとる。

ヨウジウオ科、本州中部以南、インド・太平洋域に分布。サンゴ礁域の浅く平坦な砂礫底などに普通に見られる。体長15cm。
(センター長・神田 優)
更新:
諒太
/2009年 01月 06日 17時 31分