2009年05月22日(金) 高知新聞夕刊 柏島の夏、ところてんの夏
大月発 くろしお便り(黒潮実感センター)
柏島の夏、ところてんの夏

羽釜にまきをくべ、昔ながらの製法でところてんを炊く
きみさんのこだわり
「パチパチ」「ゴーッ」「グツグツ」―。まだ薄暗い朝五時。店の裏庭から薪をくべて羽釜で湯を沸かす音が聞こえてくる。「コン、コン、パシッ」。薪を割る音。「ギュッ、ギュッ」さらしに煮溶かしたテングサを入れ、絞る音。色んな音が聞こえてくる。
五月の声を聞くと、柏島で食堂を経営する島本きみさんの裏庭では、ところてんづくりが始まる。五月ともなると日中は結構日差しが強くなり、夏を思わせる日が多くなる。
テングサを煮溶かした汁をさらしで受けて絞り出すきみさんの店の前のバケツにはテングサが水にさらされて置かれており、干棚には、さらされたテングサが干されている。最初赤紫色だったテングサは、さらして干すという作業を繰り返すうちに、薄い緑色から、脱色された少し黄みがかった白色へと変わっていく。ここで使うテングサは昨年買って一年間寝かしたテングサだという。今年獲れたものよりも、一年寝かせた方が「のり」が良く出るというのだ。
一言でテングサといっても原料には、マクサ、ヒラクサ、オニクサ、オバクサなど様々な種類があり、それぞれ寒天質の含有量に違いがあり食感も異なる。このため、一等草から三等草などに分けられ値段が違っている。
さらしでこした汁をバットに入れて自然に冷ます
修学旅行の資金に
近年磯焼けによるテングサの減少が著しい柏島だが、高知では室戸とならび全国有数のテングサの産地であった。ひと昔前まではテングサ漁だけで一年喰っていけたという。テングサの口開け日になると柏島中学校は休校となり、生徒総出でテングサを採りに行ったそうだ。潜りが達者な生徒達は海に潜りテングサを摘み、そうでない生徒は陸に広げて乾燥させる作業などを行い、テングサを売ったお金で修学旅行資金の足しにしたのだという。
その頃は組合の配慮で中学校前のエリアを生徒専用に確保していてくれたものだと、きみさんは懐かしそうに話してくれた。

学生らにさらす前とさらした後のテングサの違いを説明するきみさん
体験学習の一環として
昔ながらの製法でところてんを炊くきみさんのところには、地元柏島小学校の子ども達から高知大学の学生までが体験をしにやってくる。高知大学で開講している「土佐の海の環境学」(通称柏島学)では、毎年夏に現地実習を島で行う。朝五時からの作業を体験するために、普段起きたこともない時間帯に起きて、眠い目をこすりながら参加するのだが、体験した学生達の評判はすこぶる良い。「良い体験ができて本当に良かった」「柔らかいあの喉ごしとあの味が忘れられない」と感想文にはそう記されていた。

さらしたテングサと、涼しげな器に入ったところてん(板橋雄二氏提供)
夏の風物詩
ズル、ズルッ、チュル、チュル。ところてんを食べている親子の美味しそうな音が聞こえてくる。「どう、美味しい?」「うん美味しい」。大きな器一杯のところてんをおつゆの最後の一滴まで飲み干した子どもは満足そうにそう言った。
お好み「きみ」。ここは島の元気なおばちゃん達の溜まり場だ。島のことを知りたければここに来ればいい。気さくな島のおばちゃん達は、一見さんのお客が来ても、さながら漫才でもしているかのように柏島弁丸出しで陽気に楽しませてくれる。
いつも店内からは笑い声が聞こえてくる。中でもきみさんの笑い声は格別だ。知らない人でも吹き出してしまう。私の中での柏島を代表する音のトップ3に入っている。
お客というより昔からの友達のような親近感を持って、今年もこの味と、島の元気なおばちゃんに会いに全国から観光客が訪れる。
「きみさん、ところてーん。」
今年ももうすぐあの暑い夏がやってくる。

路地裏には猫が似合う。きみさんの店の周りには猫が集まって木陰で休んでいる(円満堂修二氏提供)
センター長・神田 優
柏島の夏、ところてんの夏

羽釜にまきをくべ、昔ながらの製法でところてんを炊く
きみさんのこだわり
「パチパチ」「ゴーッ」「グツグツ」―。まだ薄暗い朝五時。店の裏庭から薪をくべて羽釜で湯を沸かす音が聞こえてくる。「コン、コン、パシッ」。薪を割る音。「ギュッ、ギュッ」さらしに煮溶かしたテングサを入れ、絞る音。色んな音が聞こえてくる。
五月の声を聞くと、柏島で食堂を経営する島本きみさんの裏庭では、ところてんづくりが始まる。五月ともなると日中は結構日差しが強くなり、夏を思わせる日が多くなる。

テングサを煮溶かした汁をさらしで受けて絞り出す
一言でテングサといっても原料には、マクサ、ヒラクサ、オニクサ、オバクサなど様々な種類があり、それぞれ寒天質の含有量に違いがあり食感も異なる。このため、一等草から三等草などに分けられ値段が違っている。

さらしでこした汁をバットに入れて自然に冷ます
修学旅行の資金に
近年磯焼けによるテングサの減少が著しい柏島だが、高知では室戸とならび全国有数のテングサの産地であった。ひと昔前まではテングサ漁だけで一年喰っていけたという。テングサの口開け日になると柏島中学校は休校となり、生徒総出でテングサを採りに行ったそうだ。潜りが達者な生徒達は海に潜りテングサを摘み、そうでない生徒は陸に広げて乾燥させる作業などを行い、テングサを売ったお金で修学旅行資金の足しにしたのだという。
その頃は組合の配慮で中学校前のエリアを生徒専用に確保していてくれたものだと、きみさんは懐かしそうに話してくれた。

学生らにさらす前とさらした後のテングサの違いを説明するきみさん
体験学習の一環として
昔ながらの製法でところてんを炊くきみさんのところには、地元柏島小学校の子ども達から高知大学の学生までが体験をしにやってくる。高知大学で開講している「土佐の海の環境学」(通称柏島学)では、毎年夏に現地実習を島で行う。朝五時からの作業を体験するために、普段起きたこともない時間帯に起きて、眠い目をこすりながら参加するのだが、体験した学生達の評判はすこぶる良い。「良い体験ができて本当に良かった」「柔らかいあの喉ごしとあの味が忘れられない」と感想文にはそう記されていた。

さらしたテングサと、涼しげな器に入ったところてん(板橋雄二氏提供)
夏の風物詩
ズル、ズルッ、チュル、チュル。ところてんを食べている親子の美味しそうな音が聞こえてくる。「どう、美味しい?」「うん美味しい」。大きな器一杯のところてんをおつゆの最後の一滴まで飲み干した子どもは満足そうにそう言った。
お好み「きみ」。ここは島の元気なおばちゃん達の溜まり場だ。島のことを知りたければここに来ればいい。気さくな島のおばちゃん達は、一見さんのお客が来ても、さながら漫才でもしているかのように柏島弁丸出しで陽気に楽しませてくれる。
いつも店内からは笑い声が聞こえてくる。中でもきみさんの笑い声は格別だ。知らない人でも吹き出してしまう。私の中での柏島を代表する音のトップ3に入っている。
お客というより昔からの友達のような親近感を持って、今年もこの味と、島の元気なおばちゃんに会いに全国から観光客が訪れる。
「きみさん、ところてーん。」
今年ももうすぐあの暑い夏がやってくる。

路地裏には猫が似合う。きみさんの店の周りには猫が集まって木陰で休んでいる(円満堂修二氏提供)
センター長・神田 優
更新:
諒太
/2010年 02月 02日 10時 08分