2009年06月26日(金) 高知新聞夕刊 海の中の森 再生へ
大月発 くろしお便り(黒潮実感センター)
海の中の森 再生へ

地元ダイバーやくろしお生物研究所のスタッフ、学生協力の下、魚網にホンダワラ類を取り付けていく(大月町柏島)
異変
いつもそこにあると気づかないが、無くなって初めて気づくものがある。磯臭さもその一つではないだろうか。
春の終わりから夏にかけて、海辺を歩くと「ぷーん」と磯の臭いがする。臭いの元をたどっていくと、波打ち際に打ち上げられた大量の海藻が目につく。海がしけた翌日などは浜一杯にテングサが打ち上がり、それらを集めるだけでお金になった。テングサで作るところてんは初夏の風物詩でもある。テングサだけでなく、流れ藻となってモジャコ漁には欠かせないホンダワラ類も打ちあがる。腐ると臭くて、見栄えも良くないので、よく集めて乾かしては燃やしてる風景を目にした。ほんの数年前なら当たり前の景色だったが、最近は目にすることが減ったのではないだろうか?

磯焼けした竜の浜。円内の茶色い部分がイソモク群落。以前は湾全域に繁茂していた
磯焼け
最近磯焼けという言葉をよく耳にされないだろうか。浅場の磯には多種多様な海藻類が繁茂し藻場を形成するが、磯焼けとはその藻場が消失してしまった状態をいう。
原因として考えられるのは、陸域からの栄養塩の不足や温暖化に伴う海水温の上昇、赤土などの流入による照度不足などがあげられる。
磯焼けしている海底の生物相は乏しい
また一度磯焼けが起きてしまうとそこに追い打ちをかけるように、ウニやブダイ、アイゴなど藻食性動物などの食害により、磯焼けが持続してしまうという悪循環も生じる。

海藻の根元に集まるナガウニ
網にくくりつける
今回実験的に行ったのは養殖用の古くなった網を海底に設置し、その網目によく繁茂している近隣海域からのホンダワラ類を持って来てくくりつけるという、極めてシンプルなものである。ちなみにこのホンダワラ類は著しく減少してはいるものの、柏島に現在も生息している種類である。
ウニの食害を避けるため海底から網を浮かして設置
網は海底から1メートル程上に浮くように設置し、ウニの食害を免れるようにしている。網目上で成熟したホンダワラ類の幼胚(受精卵)が下の石や網目に付着し、成長してくれることを期待している。また石に付着した若い芽はウニによる食害を受けやすいため、付近のウニ類(ナガウニ類やガンガゼ類)を定期的に除去して経緯を見守りたい。

柏島・竜の浜のイソモク(ホンダワラ類)群落
西洋医学と東洋医学
黒潮実感センターではこれまで海の中の森づくりと称して、藻に卵を産むモイカ(アオリイカ)の人工産卵床として、藻場の代わりとして間伐材の枝葉を海中に設置し、海中に「里山」のような風景を作り出した。間伐材にはおびただしい量の卵が産み付けられ、大きな成果を上げた。
これは産卵場所としての藻場が減少することで、モイカが獲れなくなると言う漁師にとっての「痛み」をブロックするための、西洋医学的処方箋として有効だった。しかし磯焼けによる藻場の消失を回復するものではないため、根本的な治療にはなってない。今回新たに取り組みを始めたのが「藻場を再生させる」ことだった。
マメタワラ(ホンダワラ類)に産み付けられたアオリイカの卵嚢(らんのう)
藻場やサンゴ礁は一次生産の場であると同時に、生物の住みかであり、餌場であり、幼稚魚などの保育場でもある。 藻場を再生は、自然が本来持っていた自然治癒力を高め、元々あった生態系を再生させようという取り組みだ。いわば東洋医学的処方箋といえよう。
今後、西洋医学的処方箋と東洋医学的処方箋を同時に処方することで、本当の意味での「海の中の森づくり」に取り組む。 すぐに成果が出るかどうかわからないが、一つずつ可能性を確かめていく作業を地道に行う予定である。
センター長・神田 優
海の中の森 再生へ

地元ダイバーやくろしお生物研究所のスタッフ、学生協力の下、魚網にホンダワラ類を取り付けていく(大月町柏島)
異変
いつもそこにあると気づかないが、無くなって初めて気づくものがある。磯臭さもその一つではないだろうか。
春の終わりから夏にかけて、海辺を歩くと「ぷーん」と磯の臭いがする。臭いの元をたどっていくと、波打ち際に打ち上げられた大量の海藻が目につく。海がしけた翌日などは浜一杯にテングサが打ち上がり、それらを集めるだけでお金になった。テングサで作るところてんは初夏の風物詩でもある。テングサだけでなく、流れ藻となってモジャコ漁には欠かせないホンダワラ類も打ちあがる。腐ると臭くて、見栄えも良くないので、よく集めて乾かしては燃やしてる風景を目にした。ほんの数年前なら当たり前の景色だったが、最近は目にすることが減ったのではないだろうか?

磯焼けした竜の浜。円内の茶色い部分がイソモク群落。以前は湾全域に繁茂していた
磯焼け
最近磯焼けという言葉をよく耳にされないだろうか。浅場の磯には多種多様な海藻類が繁茂し藻場を形成するが、磯焼けとはその藻場が消失してしまった状態をいう。
原因として考えられるのは、陸域からの栄養塩の不足や温暖化に伴う海水温の上昇、赤土などの流入による照度不足などがあげられる。

磯焼けしている海底の生物相は乏しい
また一度磯焼けが起きてしまうとそこに追い打ちをかけるように、ウニやブダイ、アイゴなど藻食性動物などの食害により、磯焼けが持続してしまうという悪循環も生じる。

海藻の根元に集まるナガウニ
網にくくりつける
今回実験的に行ったのは養殖用の古くなった網を海底に設置し、その網目によく繁茂している近隣海域からのホンダワラ類を持って来てくくりつけるという、極めてシンプルなものである。ちなみにこのホンダワラ類は著しく減少してはいるものの、柏島に現在も生息している種類である。

ウニの食害を避けるため海底から網を浮かして設置
網は海底から1メートル程上に浮くように設置し、ウニの食害を免れるようにしている。網目上で成熟したホンダワラ類の幼胚(受精卵)が下の石や網目に付着し、成長してくれることを期待している。また石に付着した若い芽はウニによる食害を受けやすいため、付近のウニ類(ナガウニ類やガンガゼ類)を定期的に除去して経緯を見守りたい。

柏島・竜の浜のイソモク(ホンダワラ類)群落
西洋医学と東洋医学
黒潮実感センターではこれまで海の中の森づくりと称して、藻に卵を産むモイカ(アオリイカ)の人工産卵床として、藻場の代わりとして間伐材の枝葉を海中に設置し、海中に「里山」のような風景を作り出した。間伐材にはおびただしい量の卵が産み付けられ、大きな成果を上げた。
これは産卵場所としての藻場が減少することで、モイカが獲れなくなると言う漁師にとっての「痛み」をブロックするための、西洋医学的処方箋として有効だった。しかし磯焼けによる藻場の消失を回復するものではないため、根本的な治療にはなってない。今回新たに取り組みを始めたのが「藻場を再生させる」ことだった。

マメタワラ(ホンダワラ類)に産み付けられたアオリイカの卵嚢(らんのう)
藻場やサンゴ礁は一次生産の場であると同時に、生物の住みかであり、餌場であり、幼稚魚などの保育場でもある。 藻場を再生は、自然が本来持っていた自然治癒力を高め、元々あった生態系を再生させようという取り組みだ。いわば東洋医学的処方箋といえよう。
今後、西洋医学的処方箋と東洋医学的処方箋を同時に処方することで、本当の意味での「海の中の森づくり」に取り組む。 すぐに成果が出るかどうかわからないが、一つずつ可能性を確かめていく作業を地道に行う予定である。
センター長・神田 優
更新:
諒太
/2010年 02月 02日 10時 08分