2009年09月25日(金) 高知新聞夕刊 食うか食われるか
大月発 くろしお便り(黒潮実感センター)

大きな口いっぱいにカサゴをのみ込もうとするアカエソ(アクアス提供)
大きな口でひと飲み
「助けてー」という叫び声が聞こえてきそうな程大きな口を開けているカサゴを、カサゴより一回り大きな口でガブッと丸呑みにしようとしているのはアカエソ。悲壮感漂うカサゴの眼に比べ、無機質な目をしているエソは少々不気味です。
カサゴは何とか飲み込まれまいと大きな口を開けて、鰓蓋(えらぶた)を一杯広げて抵抗しています。アカエソもキビナゴのような骨の柔らかい魚ではなく、太くて鋭い背びれや、トゲ混じりの大きな頭をしたカサゴを飲み込むのに少々苦労しているようです。カサゴもアカエソも口に入る大きさのモノなら何でも貪食する魚食性の魚たちです。
このように海の中では絶えず喰うか喰われるかのドラマが繰り広げられているのです。今回は「食うチャンス」を確実にするための、魚の口や歯の仕組みを紹介しましょう。
アカエソは転石まじりの砂地の上や、時には砂に潜って小魚を待ち伏せしています。キビナゴの大群が来ると海底から猛ダッシュしてアタックします。でもカツオやマグロのような長時間遊泳することができる体ではないため、一瞬のダッシュにかけています。
逃げない海藻を餌とする藻食性の魚と比べ、魚食性の魚にとって餌を捕らえる機会は極めて低いのが実情です。ワンチャンスを確実にものにするために、特化した器官(口や歯)を持っています。

容易に内側に倒れる顎歯(ピンセットで押している部分)
口の中は歯だらけ
一般的に歯と言えば口の入り口、すなわち上あごと下あごの上に生えているものを想像しますよね。写真でもわかるようにアカエソのあごの上にもずらっと鋭い歯が見えています。これは顎歯(がくし)と言ってあごの上に生えている歯です。
実は魚の歯はあごの上だけでなく口の中の色んな所に存在しているのです。このアカエソという魚は舌のような場所(専門的には基舌骨という)の上や、上あごの裏の部分(口蓋骨(こうがいこつ))や喉にまで鋭い歯が口の内側に向いて生えているのが特徴です。

大きな口の中には顎歯の他、上あごの裏側、舌の上、さらに喉にまでも歯が生えている
捕らえた獲物は逃がさない
捕らえた獲物を確実に飲み込むために、アカエソの歯はおもしろい構造をしています。
皆さんが釣りをしていてこの魚を釣ったら一度口の中に指を入れてみてください。スルッと入ることでしょう。しかし口から指を抜こうとすると歯が引っかかってなかなか抜けないことに気づくはずです。
スルッと入るのは顎歯が内側に容易に倒れるからです。この歯は蝶番(ちょうつがい)構造をしており口の内側には倒れるが、外側には全く倒れない構造になっているため、くわえられた獲物は徐々に口の中に入っていく仕組みになっています。一方通行の死へのトンネルのようです。

赤く光る目をもち、トカゲのような細長い体をしたアカエソ
お口のお手入れ
このように小魚にとってはおっかない存在のアカエソですが、決して襲われない魚もいます。ホンソメワケベラです。
紺と白のストライプ模様が美しいホンソメワケベラは、魚たちの身体に付いた寄生虫や口の中の食べ残しなどを餌とする、海の掃除屋さんです。アカエソを含む多くの魚たちは体の掃除をして貰いたいとき、ホンソメワケベラの縄張り内に入ってきてじっとしています。
ホンソメワケベラ(下)にクリーニングして貰っているアカエソ
掃除して貰っているときは実に気持ちよさそうに、ヒレを広げたり口を大きく開けたり、「かゆいのはここよ」と言わんばかりのポーズをとります。
ガブッとひと飲みにされそうなアカエソの大きな口の中にも平気で入っていくのを見てると、誰も見てなかったらこっそりくっちまおうかと思わないか不思議です。でも長い年月の間に培われたこの関係は揺るぎないもののようです。それはアカエソにとってはかゆいところに手が届く掃除屋さん的存在であるし、ホンソメワケベラにとってはわざわざ自宅まで餌を運んできてくれるお客様という存在であるからです。こういうふうに双方にメリットがある持ちつ持たれつの関係を共生関係と言います。
海の中の魚を観察していると、餌の取り方と餌の種類、体の形や器官(口、歯、消化管など)は実によく対応していることに気づきます。皆さんも釣った魚を捌くときちょっと観察してみてはいかがでしょうか。
センター長・神田 優

大きな口いっぱいにカサゴをのみ込もうとするアカエソ(アクアス提供)
大きな口でひと飲み
「助けてー」という叫び声が聞こえてきそうな程大きな口を開けているカサゴを、カサゴより一回り大きな口でガブッと丸呑みにしようとしているのはアカエソ。悲壮感漂うカサゴの眼に比べ、無機質な目をしているエソは少々不気味です。
カサゴは何とか飲み込まれまいと大きな口を開けて、鰓蓋(えらぶた)を一杯広げて抵抗しています。アカエソもキビナゴのような骨の柔らかい魚ではなく、太くて鋭い背びれや、トゲ混じりの大きな頭をしたカサゴを飲み込むのに少々苦労しているようです。カサゴもアカエソも口に入る大きさのモノなら何でも貪食する魚食性の魚たちです。
このように海の中では絶えず喰うか喰われるかのドラマが繰り広げられているのです。今回は「食うチャンス」を確実にするための、魚の口や歯の仕組みを紹介しましょう。
アカエソは転石まじりの砂地の上や、時には砂に潜って小魚を待ち伏せしています。キビナゴの大群が来ると海底から猛ダッシュしてアタックします。でもカツオやマグロのような長時間遊泳することができる体ではないため、一瞬のダッシュにかけています。
逃げない海藻を餌とする藻食性の魚と比べ、魚食性の魚にとって餌を捕らえる機会は極めて低いのが実情です。ワンチャンスを確実にものにするために、特化した器官(口や歯)を持っています。

容易に内側に倒れる顎歯(ピンセットで押している部分)
口の中は歯だらけ
一般的に歯と言えば口の入り口、すなわち上あごと下あごの上に生えているものを想像しますよね。写真でもわかるようにアカエソのあごの上にもずらっと鋭い歯が見えています。これは顎歯(がくし)と言ってあごの上に生えている歯です。
実は魚の歯はあごの上だけでなく口の中の色んな所に存在しているのです。このアカエソという魚は舌のような場所(専門的には基舌骨という)の上や、上あごの裏の部分(口蓋骨(こうがいこつ))や喉にまで鋭い歯が口の内側に向いて生えているのが特徴です。

大きな口の中には顎歯の他、上あごの裏側、舌の上、さらに喉にまでも歯が生えている
捕らえた獲物は逃がさない
捕らえた獲物を確実に飲み込むために、アカエソの歯はおもしろい構造をしています。
皆さんが釣りをしていてこの魚を釣ったら一度口の中に指を入れてみてください。スルッと入ることでしょう。しかし口から指を抜こうとすると歯が引っかかってなかなか抜けないことに気づくはずです。
スルッと入るのは顎歯が内側に容易に倒れるからです。この歯は蝶番(ちょうつがい)構造をしており口の内側には倒れるが、外側には全く倒れない構造になっているため、くわえられた獲物は徐々に口の中に入っていく仕組みになっています。一方通行の死へのトンネルのようです。

赤く光る目をもち、トカゲのような細長い体をしたアカエソ
お口のお手入れ
このように小魚にとってはおっかない存在のアカエソですが、決して襲われない魚もいます。ホンソメワケベラです。
紺と白のストライプ模様が美しいホンソメワケベラは、魚たちの身体に付いた寄生虫や口の中の食べ残しなどを餌とする、海の掃除屋さんです。アカエソを含む多くの魚たちは体の掃除をして貰いたいとき、ホンソメワケベラの縄張り内に入ってきてじっとしています。

ホンソメワケベラ(下)にクリーニングして貰っているアカエソ
掃除して貰っているときは実に気持ちよさそうに、ヒレを広げたり口を大きく開けたり、「かゆいのはここよ」と言わんばかりのポーズをとります。
ガブッとひと飲みにされそうなアカエソの大きな口の中にも平気で入っていくのを見てると、誰も見てなかったらこっそりくっちまおうかと思わないか不思議です。でも長い年月の間に培われたこの関係は揺るぎないもののようです。それはアカエソにとってはかゆいところに手が届く掃除屋さん的存在であるし、ホンソメワケベラにとってはわざわざ自宅まで餌を運んできてくれるお客様という存在であるからです。こういうふうに双方にメリットがある持ちつ持たれつの関係を共生関係と言います。
海の中の魚を観察していると、餌の取り方と餌の種類、体の形や器官(口、歯、消化管など)は実によく対応していることに気づきます。皆さんも釣った魚を捌くときちょっと観察してみてはいかがでしょうか。
センター長・神田 優
更新:
諒太
/2010年 02月 02日 10時 06分