2009年11月27日(金) 高知新聞夕刊 絶品とんごろう
大月発 くろしお便り(黒潮実感センター)
絶品とんごろう
寒くなったら看板
北西の季節風が吹き始めるこの時期になると、大月町内のスーパーの軒先には「大きなとんごろうあります」と書いた手作りの看板が出る。「とんごろう」というのは魚の名前だが一般的にはほとんど知られていないだろう。
体長は10数センチほどの小魚で、背側は薄いうぐいす色から青っぽい色をしており、体側は銀白色をしている。顔を正面から見ると逆三角形をしており、ボラによく似ている。
ここ大月ではこのとんごろうを大変珍重する。防波堤で小アジやサヨリなどを釣っていると外道で食いついてくる魚で、大月以外では仮に釣れてもまず捨てられる。ちなみにインターネットで検索しても、美味とはまず出てこない。一部の釣り人が少し食べる程度で、一般的に食べられるようなものではない様子。しかし、旨い。
漁師は「トウゴロウイワシ」だというが、正確には標準和名のトウゴロウイワシではない。漁師はとんごろうを二種類に区別しており、丸とんごろうと平とんごろうと呼ぶが、丸とんごろうはギンイソイワシ、平とんごろうはヤクシマイワシのことを指す。区別がつきにくいが、ヤクシマイワシはギンイソイワシに比べて、体高が高く平たいイメージがある。美味しいのは丸い方。
ちなみに、イワシという名が付いているが、マイワシとかカタクチイワシのようなイワシの仲間ではない。イワシ類がニシン目に属するのに対し、本種を含むグループはトウゴロウイワシ目に属する全くの別物。トウゴロウイワシの仲間は背びれか2基あること、胸びれの位置が腹部側ではなく背部にあるので区別できる。
絶賛したい丸揚げ
とんごろうは大月では一般的に鱗と内臓を取って干物にして食べられることが多い。あぶって食べるとかむほどに味わい深く旨い。
昔、柏島ではこのとんごろうを使ってさつま汁を作っていた。さつま汁とは柏島の郷土料理で、捌いた魚の身(焼いた身で作ることもある)をすり鉢ですりながら、麦味噌を加え、アラから取った出汁で伸ばしながら味を調えとろりと仕上げる。そこに砕いた落花生を入れ香り付けをし、熱々のご飯の上にかけてかき込む漁師飯だ。
うろこが硬い上に小さいので捌くのに面倒だが、これで作ったさつまの味は今でも忘れられないとお年寄りは言う。タイやアジに比べて汁の色がねず色になってきれいではないのが難点だがとてもうまいとのこと。
新鮮ならばにぎり寿司も絶品。小さい魚なので面倒くさいが三枚に下ろして握る。堅い身なのであっさりしていると思いきや、意外にも脂がのっており非常にうまい。
しかし私が目からうろこと絶賛するのは、丸揚げ。鱗も内臓も取らずに素揚げにしたものに塩を振っただけのものだ。
熱した油に放り込むと「ジュワー」と言う音がする。火が通り浮き上がってくるにしたがって次第にうろこが逆立って起き上がってくる。まるで松ぼっくりのようだ。それを「アツツ、ハフハフ」と言いながら頭から丸かぶりする。かんだ瞬間、パリパリに揚がった鱗がジャクジャクと音を立てて香ばしい香りがする。そして次の瞬間、はらわたのほろ苦さと一緒に腹部に蓄えられている脂の旨さが口いっぱいに広がる。「あー、シアワセ」
冷えるとうまくなくなるので急いで食べる。こうしてとんごろう争奪戦が始まる。しかし食べ過ぎには注意。あまりに旨いので食べ過ぎて便にうろこが詰まって糞詰まりをおこした人がいたと聞いた。笑うに笑えない話だ。
偏見を持たず
全国各地には同じ魚であっても珍重されたり、評価が低かったりすることがある。棲んでいる海によって若干のうまさの違いはあるにせよ、偏見を持って食べないのは損だと思う。私自身ゲテモノと呼ばれるモノから珍品まで何でも食べたい方で、自分の舌で評価することにしている。全国各地で一般的には食べないと評価されるモノであっても、現地の人がうまいというモノはやはりうまいのだ。
それほど漁がないため町外にはほとんど出回らない。その日あるかどうかわからないが、食べたい人は大月に来るべし!
センター長・神田 優
絶品とんごろう
寒くなったら看板
北西の季節風が吹き始めるこの時期になると、大月町内のスーパーの軒先には「大きなとんごろうあります」と書いた手作りの看板が出る。「とんごろう」というのは魚の名前だが一般的にはほとんど知られていないだろう。
体長は10数センチほどの小魚で、背側は薄いうぐいす色から青っぽい色をしており、体側は銀白色をしている。顔を正面から見ると逆三角形をしており、ボラによく似ている。
ここ大月ではこのとんごろうを大変珍重する。防波堤で小アジやサヨリなどを釣っていると外道で食いついてくる魚で、大月以外では仮に釣れてもまず捨てられる。ちなみにインターネットで検索しても、美味とはまず出てこない。一部の釣り人が少し食べる程度で、一般的に食べられるようなものではない様子。しかし、旨い。
漁師は「トウゴロウイワシ」だというが、正確には標準和名のトウゴロウイワシではない。漁師はとんごろうを二種類に区別しており、丸とんごろうと平とんごろうと呼ぶが、丸とんごろうはギンイソイワシ、平とんごろうはヤクシマイワシのことを指す。区別がつきにくいが、ヤクシマイワシはギンイソイワシに比べて、体高が高く平たいイメージがある。美味しいのは丸い方。
ちなみに、イワシという名が付いているが、マイワシとかカタクチイワシのようなイワシの仲間ではない。イワシ類がニシン目に属するのに対し、本種を含むグループはトウゴロウイワシ目に属する全くの別物。トウゴロウイワシの仲間は背びれか2基あること、胸びれの位置が腹部側ではなく背部にあるので区別できる。
絶賛したい丸揚げ
とんごろうは大月では一般的に鱗と内臓を取って干物にして食べられることが多い。あぶって食べるとかむほどに味わい深く旨い。
昔、柏島ではこのとんごろうを使ってさつま汁を作っていた。さつま汁とは柏島の郷土料理で、捌いた魚の身(焼いた身で作ることもある)をすり鉢ですりながら、麦味噌を加え、アラから取った出汁で伸ばしながら味を調えとろりと仕上げる。そこに砕いた落花生を入れ香り付けをし、熱々のご飯の上にかけてかき込む漁師飯だ。
うろこが硬い上に小さいので捌くのに面倒だが、これで作ったさつまの味は今でも忘れられないとお年寄りは言う。タイやアジに比べて汁の色がねず色になってきれいではないのが難点だがとてもうまいとのこと。
新鮮ならばにぎり寿司も絶品。小さい魚なので面倒くさいが三枚に下ろして握る。堅い身なのであっさりしていると思いきや、意外にも脂がのっており非常にうまい。
しかし私が目からうろこと絶賛するのは、丸揚げ。鱗も内臓も取らずに素揚げにしたものに塩を振っただけのものだ。
熱した油に放り込むと「ジュワー」と言う音がする。火が通り浮き上がってくるにしたがって次第にうろこが逆立って起き上がってくる。まるで松ぼっくりのようだ。それを「アツツ、ハフハフ」と言いながら頭から丸かぶりする。かんだ瞬間、パリパリに揚がった鱗がジャクジャクと音を立てて香ばしい香りがする。そして次の瞬間、はらわたのほろ苦さと一緒に腹部に蓄えられている脂の旨さが口いっぱいに広がる。「あー、シアワセ」
冷えるとうまくなくなるので急いで食べる。こうしてとんごろう争奪戦が始まる。しかし食べ過ぎには注意。あまりに旨いので食べ過ぎて便にうろこが詰まって糞詰まりをおこした人がいたと聞いた。笑うに笑えない話だ。
偏見を持たず
全国各地には同じ魚であっても珍重されたり、評価が低かったりすることがある。棲んでいる海によって若干のうまさの違いはあるにせよ、偏見を持って食べないのは損だと思う。私自身ゲテモノと呼ばれるモノから珍品まで何でも食べたい方で、自分の舌で評価することにしている。全国各地で一般的には食べないと評価されるモノであっても、現地の人がうまいというモノはやはりうまいのだ。
それほど漁がないため町外にはほとんど出回らない。その日あるかどうかわからないが、食べたい人は大月に来るべし!
センター長・神田 優
投稿:
諒太
/2010年 01月 04日 10時 13分