2009年12月25日(金) 高知新聞夕刊 黒潮トライアングル
大月発 くろしお便り(黒潮実感センター)
黒潮トライアングル

一人乗りのバンカーボート。こんな船でもカツオを獲りに出掛ける
先日、フィリピンのビコール大学で「黒潮カンファレンス(会議・協議会)」が開かれ、わたしも参加してきた。今回はその内容や、黒潮研究をめぐるユニークな計画などについてリポートしたい。
日台比で黒潮共同研究
日本、台湾、フィリピンはそれぞれ、温帯、亜熱帯、熱帯の気候帯に属し、三カ国を結ぶと三角形の海域を形成する。高知大学黒潮圏海洋科学研究科ではこれを「黒潮トライアングル」と呼び、研究している。
この三角海域は豊富な漁業資源をもち、多様で多彩な海洋生態系を持つ。しかし、近年の気候変動の影響や、それぞれ異なる経済の発展段階を背景に、沿岸環境への自然的、人為的インパクトが高まり、沿岸環境や海洋生態系への負荷を急速に高めつつある。
島渡しの船。大型できれいにペイントされている
国境を越えて波及し合うこうした海洋環境の変化に対し、黒潮海流を共有する3カ国の大学間で学術情報を分かち合い、共同で調査研究を進めるために、高知大学が呼びかけ、フィリピンのビコール大学、台湾の国立中山大学と協定を交わした。2005年から共同の調査研究を開始。そして成果検討会を高知(2007年)、台湾(2008年)で行い、今回がフィリピンだった。

点々と存在する漁村。接岸は竹竿で行う
3国とも生態系に変化
共同研究を通じてこれまでにわかってきたこととしては・3国のどこも海洋生態系に明らかな変化が認められる(藻場の後退と魚種の混交)・環境問題の解決には異分野(文理)融合の研究が重要との認識が広がった・環境変化を測る共通種として、海藻と魚種が絞られてきた―などがある。
また今回は今後の展望として、次のようなことを決めた。

巻き網でマグロやカツオを獲る。この日あまりの豊漁のために助っ人の船も多数でていた。手前の水しぶきはマグロによるものと思われる
シーカヤックで日本へ
ところで現在、黒潮をめぐって、あるユニークな計画が進んでいる。キーワードの「クロシオ」を直接実感する体験をしようというものだ。計画しているのは私の恩師である高知大学黒潮圏海洋科学研究科の山岡耕作教授である。
黒潮は赤道の北側を西向きに流れる北赤道海流に起源を持ち、これがフィリピン諸島の東で、北に向きを変え、台湾と石垣島の間を抜け、九州の南西で方向を東向きに転じ、トカラ海峡を通って日本南岸に流れ込む。
北上を開始するその源流地点とも言えるフィリピン諸島東岸からシーカヤックに乗り、島の各地に点在する小さな漁村を周りながら日本まで人力で来ようという計画だ。もちろんいきなりできる旅ではない。数年がかりで行いたいようだ。
この企画に夢を感じサポートしてくれるのがシーカヤック冒険家でグレートシーマンプロジェクトを主催している八幡暁(やはた さとる)さんである。
彼は「潜れる海があれば死なない」をテーマに、人力で漕ぐシーカヤックと素潜りによる魚突きで各地の漁師の仕事を見ながら、国内外の海を渡り歩いてきた。これまでもオーストラリアやインドネシア、フィリピンから日本までシーカヤックでの無伴走、単独槽破をしてきたスペシャリストである。

船上での飯の支度。床下の七輪で煮炊きする。
バンカーボートで調査
山岡先生の旅は5月にスタートする予定だが。今回先生のフィリピンでの下調べに私も同行し旅の下調べとして各漁村や海の状態を見て回った。
現地の船はバンカーボートと言って細長いボートの両舷にアウトリガーという竹製のフロートが付いて、安定感は抜群である。一人乗りの手こぎのものから100人程度乗れるエンジン付きの大型のものまである。今回は中型(10人)と比較的大型(20〜30人)の漁船をチャーターして島々を回った。長い船旅の間お昼を船内で食べたが、そこで出された漁師料理が結構うまかった。途中立ち寄った漁村でカツオを購入し、それを1〜1.5cmほどの幅で輪切りにし、少しのタマネギとニンニク、ショウガをいれて塩とコショウで味を調え、鍋に入れたら船尾の床の一段下にあるスペースに置かれている七輪で炊く。
一枚の皿にご飯を入れ、その上にカツオ汁?をかけて手でまぜながら口に運ぶといったものだったが、これがかなりうまい。思わずおかわりをしてしまった。

フィリピンで行われた黒潮カンファレンスの様子
さすがは源流域
バンカーボートで移動する際海の色がブルーから濃紺に染まっていくのを間近に見ていると、あまりの透明度の良さに思わず飛び込みたくなった。さすがは黒潮源流域だ。
陸からすぐの所では黒潮の恵であるカツオやマグロが獲れる。パヤオと呼ばれる浮き魚礁(黒潮牧場の小型版)も手こぎのボートでも行けるような陸からすぐの所にある。
おしりのすぐ下にカツオやマグロの気配を感じながら、人力で移動するシーカヤックの旅の報告が楽しみである。
センター長・神田 優
黒潮トライアングル

一人乗りのバンカーボート。こんな船でもカツオを獲りに出掛ける
先日、フィリピンのビコール大学で「黒潮カンファレンス(会議・協議会)」が開かれ、わたしも参加してきた。今回はその内容や、黒潮研究をめぐるユニークな計画などについてリポートしたい。
日台比で黒潮共同研究
日本、台湾、フィリピンはそれぞれ、温帯、亜熱帯、熱帯の気候帯に属し、三カ国を結ぶと三角形の海域を形成する。高知大学黒潮圏海洋科学研究科ではこれを「黒潮トライアングル」と呼び、研究している。
この三角海域は豊富な漁業資源をもち、多様で多彩な海洋生態系を持つ。しかし、近年の気候変動の影響や、それぞれ異なる経済の発展段階を背景に、沿岸環境への自然的、人為的インパクトが高まり、沿岸環境や海洋生態系への負荷を急速に高めつつある。

島渡しの船。大型できれいにペイントされている
国境を越えて波及し合うこうした海洋環境の変化に対し、黒潮海流を共有する3カ国の大学間で学術情報を分かち合い、共同で調査研究を進めるために、高知大学が呼びかけ、フィリピンのビコール大学、台湾の国立中山大学と協定を交わした。2005年から共同の調査研究を開始。そして成果検討会を高知(2007年)、台湾(2008年)で行い、今回がフィリピンだった。

点々と存在する漁村。接岸は竹竿で行う
3国とも生態系に変化
共同研究を通じてこれまでにわかってきたこととしては・3国のどこも海洋生態系に明らかな変化が認められる(藻場の後退と魚種の混交)・環境問題の解決には異分野(文理)融合の研究が重要との認識が広がった・環境変化を測る共通種として、海藻と魚種が絞られてきた―などがある。
また今回は今後の展望として、次のようなことを決めた。
黒潮沿岸の変化を測る指標種を特定し、共同で精査する・経年変化を正確に把握し、保全、保護につながる科学的情報を提示する・黒潮実感センターの「里海創り」の理念と方法を、各国の特徴を織り込み広げる・毎年3大学が交代でシンポジウムを主催し情報を共有する―。

巻き網でマグロやカツオを獲る。この日あまりの豊漁のために助っ人の船も多数でていた。手前の水しぶきはマグロによるものと思われる
シーカヤックで日本へ
ところで現在、黒潮をめぐって、あるユニークな計画が進んでいる。キーワードの「クロシオ」を直接実感する体験をしようというものだ。計画しているのは私の恩師である高知大学黒潮圏海洋科学研究科の山岡耕作教授である。
黒潮は赤道の北側を西向きに流れる北赤道海流に起源を持ち、これがフィリピン諸島の東で、北に向きを変え、台湾と石垣島の間を抜け、九州の南西で方向を東向きに転じ、トカラ海峡を通って日本南岸に流れ込む。
北上を開始するその源流地点とも言えるフィリピン諸島東岸からシーカヤックに乗り、島の各地に点在する小さな漁村を周りながら日本まで人力で来ようという計画だ。もちろんいきなりできる旅ではない。数年がかりで行いたいようだ。
この企画に夢を感じサポートしてくれるのがシーカヤック冒険家でグレートシーマンプロジェクトを主催している八幡暁(やはた さとる)さんである。
彼は「潜れる海があれば死なない」をテーマに、人力で漕ぐシーカヤックと素潜りによる魚突きで各地の漁師の仕事を見ながら、国内外の海を渡り歩いてきた。これまでもオーストラリアやインドネシア、フィリピンから日本までシーカヤックでの無伴走、単独槽破をしてきたスペシャリストである。

船上での飯の支度。床下の七輪で煮炊きする。
バンカーボートで調査
山岡先生の旅は5月にスタートする予定だが。今回先生のフィリピンでの下調べに私も同行し旅の下調べとして各漁村や海の状態を見て回った。
現地の船はバンカーボートと言って細長いボートの両舷にアウトリガーという竹製のフロートが付いて、安定感は抜群である。一人乗りの手こぎのものから100人程度乗れるエンジン付きの大型のものまである。今回は中型(10人)と比較的大型(20〜30人)の漁船をチャーターして島々を回った。長い船旅の間お昼を船内で食べたが、そこで出された漁師料理が結構うまかった。途中立ち寄った漁村でカツオを購入し、それを1〜1.5cmほどの幅で輪切りにし、少しのタマネギとニンニク、ショウガをいれて塩とコショウで味を調え、鍋に入れたら船尾の床の一段下にあるスペースに置かれている七輪で炊く。
一枚の皿にご飯を入れ、その上にカツオ汁?をかけて手でまぜながら口に運ぶといったものだったが、これがかなりうまい。思わずおかわりをしてしまった。

フィリピンで行われた黒潮カンファレンスの様子
さすがは源流域
バンカーボートで移動する際海の色がブルーから濃紺に染まっていくのを間近に見ていると、あまりの透明度の良さに思わず飛び込みたくなった。さすがは黒潮源流域だ。
陸からすぐの所では黒潮の恵であるカツオやマグロが獲れる。パヤオと呼ばれる浮き魚礁(黒潮牧場の小型版)も手こぎのボートでも行けるような陸からすぐの所にある。
おしりのすぐ下にカツオやマグロの気配を感じながら、人力で移動するシーカヤックの旅の報告が楽しみである。
センター長・神田 優
投稿:
諒太
/2010年 01月 04日 11時 47分