2010年6月25日(金) 高知新聞夕刊 夜の光のファンタジー
大月発くろしお便り(黒潮実感センター)
山に蛍
6月、梅雨の雨上がりの空気は、湿気をタップリ含んでムーンと肌にまとわりついてくる。こんな日は蛍ウォッチングに最適だ。
柏島で蛍?と驚かれるかもしれないが、川はなくても蛍はいるのである。川辺や用水路ではゲンジボタルがヒューっと糸を引くような光跡を残して飛び回るが、柏島周辺の蛍は違う。ヒメボタルといって、川辺ではなく山の中にいるのだ。
ゲンジボタルやヘイケボタルと比べるととても小さく、オスが体長7ミリ、メスが5ミリほどしかない。ゲンジボタルが15〜18ミリ、ヘイケボタルが10〜12ミリであるのと比べるとずいぶん違う。またゲンジボタルやヘイケボタルではオスよりもメスの方が大きいのに対し、ヒメボタルはオスの方が大きい。
人里離れた杉やヒノキの人工林や雑木林でひっそりと生活しているためか、ヒメボタルは明るい光を嫌う。ライトを照らしたりすると、潮が引くかのようにスーッと林の奥に移動してしまう。そのため居そうな場所では明かりを消して闇の中でしばらく待つ必要がある。
暗闇に目が慣れてくると、チカチカッ、チカチカッと、まるで小さなフラッシュをたいたような光が林の中からわき上がってくる。木々の間から見える星と見まがうばかりで、とても神秘的だ。
海にも蛍
海にも蛍のように光る生き物がいる。その名もウミホタル。体長は3ミリほどで透明な殻に包まれたミジンコと同じ甲殻類の生き物だ。日中は水のきれいな海底の砂に潜っているが、夜になると出てきて、ゴカイや死んだ魚の肉を食べる。刺激を与えると青白い幻想的な光を放つ。
柏島で夜の海の生き物観察を行う際、瓶のふたに小さな穴を開け、中に魚肉や豚のレバーなどを入れ、ひもを付けて海底におろしておく。数十分後引き上げて水をかき回すと、瓶の中に幻想的な青白い光が広がり、見るもの皆が「おーっ」っと感動の声を上げる。
光を放つ生き物は他にもいる。海洋性プランクトンの一種ヤコウチュウ(夜光虫 Noctiluca scintilans)だ。この名前はラテン語の noctis 「夜」+lucens 「光る」から来ている。体長1ミリほどで、比重が軽いため表層付近に多く分布する。春から初夏にかけて水温が上昇するときに大発生するが、昼には赤潮として姿を見せる。

日中見ると普通の赤潮
ナイトカヌー
黒潮実感センターでは底面が透明なクリアカヌーを使い、コーラルウォッチングやフィッシュウォッチングを行っている。通常は日中に行うのだが夜のカヌーもおもしろい。
日が沈む頃こぎ出し、サンセットクルーズを楽しむ。海面すれすれに浮かぶカヌーから、海に沈む夕陽を見るのはまた格別である。

クリアカヌーに乗りサンセットクルージングへ
その後しばらく日が暮れるのを待って浅場に向かう。夜の海は昼間と違って生き物の姿はかなり少なくなる。しかし夜行性の生き物が見られたり、日中小さく縮んでいたソフトコーラル(柔らかいサンゴの一種)などは、プランクトンを捕食するためポリプを伸ばし大きく膨らみ、赤やピンク、黄色のお花畑が現れる。それらを懐中電灯で下を照らしながら観察する。
しばらく観察した後電気を消して空を見上げると、満天の星空が広がっている。参加者の中には天の川を見た事がない方もいて、「あの白い帯は何ですか」と聞かれ、「あれが天の川ですよ」と答え、感動されたこともあった。いくつもの流れ星も見られるし、ゆっくり動いている星のような人工衛星も見られる。

岸からすぐに見える、色とりどりのソフトコーラル
最後はコウチュウで締めくくりだ。カヌーを漕いでいるとパドルがヤコウチュウの光でキラキラと光る。カヌーの底を見ると光るヤコウチュウが流れ星のように次から次へと流れていく。ナイトカヌーの真骨頂である。
輝く光の帯
今年の五月の連休は海の透明度は良かったが表層は近年まれに見る規模のヤコウチュウによる赤潮で覆われていた。船の横に吹き溜まったヤコウチュウは、まるでトマトジュースのようなどろどろ感がありあまり気持ちの良いものではない。
日中とても汚く見えた赤潮が、夜になると一変する。カヌーやボートで赤潮の海を走ると、ツアー参加者から大きな歓声が上がった。波が蛍光ブルーに光り輝いているのだった。
あまりの明るさに、船上の人の顔がはっきり見えるほどだった。暗い海中で泳ぐ魚の動きの軌跡もはっきり見える。岸壁から石を投げると、しぶきや波紋が蛍光ブルーに輝くのだった。

ボートが起こす波が夜光虫の発光で青白く輝く。右端の黒い部分は船体。左上は岸壁。(アクアス提供)
初夏の夜を彩る、すばらしい光のファンタジーを、ぜひ体験してみてほしい。
(センター長 神田 優)
山に蛍
6月、梅雨の雨上がりの空気は、湿気をタップリ含んでムーンと肌にまとわりついてくる。こんな日は蛍ウォッチングに最適だ。
柏島で蛍?と驚かれるかもしれないが、川はなくても蛍はいるのである。川辺や用水路ではゲンジボタルがヒューっと糸を引くような光跡を残して飛び回るが、柏島周辺の蛍は違う。ヒメボタルといって、川辺ではなく山の中にいるのだ。
ゲンジボタルやヘイケボタルと比べるととても小さく、オスが体長7ミリ、メスが5ミリほどしかない。ゲンジボタルが15〜18ミリ、ヘイケボタルが10〜12ミリであるのと比べるとずいぶん違う。またゲンジボタルやヘイケボタルではオスよりもメスの方が大きいのに対し、ヒメボタルはオスの方が大きい。
人里離れた杉やヒノキの人工林や雑木林でひっそりと生活しているためか、ヒメボタルは明るい光を嫌う。ライトを照らしたりすると、潮が引くかのようにスーッと林の奥に移動してしまう。そのため居そうな場所では明かりを消して闇の中でしばらく待つ必要がある。
暗闇に目が慣れてくると、チカチカッ、チカチカッと、まるで小さなフラッシュをたいたような光が林の中からわき上がってくる。木々の間から見える星と見まがうばかりで、とても神秘的だ。
海にも蛍
海にも蛍のように光る生き物がいる。その名もウミホタル。体長は3ミリほどで透明な殻に包まれたミジンコと同じ甲殻類の生き物だ。日中は水のきれいな海底の砂に潜っているが、夜になると出てきて、ゴカイや死んだ魚の肉を食べる。刺激を与えると青白い幻想的な光を放つ。
柏島で夜の海の生き物観察を行う際、瓶のふたに小さな穴を開け、中に魚肉や豚のレバーなどを入れ、ひもを付けて海底におろしておく。数十分後引き上げて水をかき回すと、瓶の中に幻想的な青白い光が広がり、見るもの皆が「おーっ」っと感動の声を上げる。
光を放つ生き物は他にもいる。海洋性プランクトンの一種ヤコウチュウ(夜光虫 Noctiluca scintilans)だ。この名前はラテン語の noctis 「夜」+lucens 「光る」から来ている。体長1ミリほどで、比重が軽いため表層付近に多く分布する。春から初夏にかけて水温が上昇するときに大発生するが、昼には赤潮として姿を見せる。
日中見ると普通の赤潮
ナイトカヌー
黒潮実感センターでは底面が透明なクリアカヌーを使い、コーラルウォッチングやフィッシュウォッチングを行っている。通常は日中に行うのだが夜のカヌーもおもしろい。
日が沈む頃こぎ出し、サンセットクルーズを楽しむ。海面すれすれに浮かぶカヌーから、海に沈む夕陽を見るのはまた格別である。
クリアカヌーに乗りサンセットクルージングへ
その後しばらく日が暮れるのを待って浅場に向かう。夜の海は昼間と違って生き物の姿はかなり少なくなる。しかし夜行性の生き物が見られたり、日中小さく縮んでいたソフトコーラル(柔らかいサンゴの一種)などは、プランクトンを捕食するためポリプを伸ばし大きく膨らみ、赤やピンク、黄色のお花畑が現れる。それらを懐中電灯で下を照らしながら観察する。
しばらく観察した後電気を消して空を見上げると、満天の星空が広がっている。参加者の中には天の川を見た事がない方もいて、「あの白い帯は何ですか」と聞かれ、「あれが天の川ですよ」と答え、感動されたこともあった。いくつもの流れ星も見られるし、ゆっくり動いている星のような人工衛星も見られる。
岸からすぐに見える、色とりどりのソフトコーラル
最後はコウチュウで締めくくりだ。カヌーを漕いでいるとパドルがヤコウチュウの光でキラキラと光る。カヌーの底を見ると光るヤコウチュウが流れ星のように次から次へと流れていく。ナイトカヌーの真骨頂である。
輝く光の帯
今年の五月の連休は海の透明度は良かったが表層は近年まれに見る規模のヤコウチュウによる赤潮で覆われていた。船の横に吹き溜まったヤコウチュウは、まるでトマトジュースのようなどろどろ感がありあまり気持ちの良いものではない。
日中とても汚く見えた赤潮が、夜になると一変する。カヌーやボートで赤潮の海を走ると、ツアー参加者から大きな歓声が上がった。波が蛍光ブルーに光り輝いているのだった。
あまりの明るさに、船上の人の顔がはっきり見えるほどだった。暗い海中で泳ぐ魚の動きの軌跡もはっきり見える。岸壁から石を投げると、しぶきや波紋が蛍光ブルーに輝くのだった。
ボートが起こす波が夜光虫の発光で青白く輝く。右端の黒い部分は船体。左上は岸壁。(アクアス提供)
初夏の夜を彩る、すばらしい光のファンタジーを、ぜひ体験してみてほしい。
(センター長 神田 優)
更新:
Kanda
/2010年 07月 07日 11時 19分