2010年10月22日(金)高知新聞夕刊 けんこうおんちゃんの思い出
大月発くろしお便り(黒潮実感センター)
けんこうおんちゃんの想い出

サワラ漁の電気銛を構えてくれた、今は亡きけんこうおんちゃんこと熊崎謙次郎さん(2002年、大月柏島)
最近時々大月町の古満目漁港に魚を買いに行く。古満目には共栄組合と水主組合の2つの大敷網があり、年間を通じて色んな魚が水揚げされる。そんな中、ひときわ大きな魚が揚がっていた。
沖サワラの伝統漁法
地元でサワラとか沖サワラと呼ばれるカマスサワラだ。大きいものでは2m、10kg以上にもなる。夏から秋が旬の魚で、柔らかい身だが刺身にすると美味しい。

古満目の市場に揚がった沖サワラ
この魚を見ると、昔学生時代に大変お世話になった漁師さんを思い出す。以前柏島にはこの魚を捕る独特の伝統漁法があり(宿毛湾では今もやっているところがあるようだ)、それを教えてくれたのがけんこうおんちゃんこと、故・熊崎謙次郎さんだた。6年前、83歳で亡くなられた。
今から20年ほど前、私がまだ高知大学の大学院生の頃、柏島に家を一軒借りて潜水調査をしていたことがある。島の北側にある後の浜に面した家で、私は愛犬ムクと一緒に生活していたのだが、その家の向かいに住んでおられたのが。けんこうおんちゃんだった。
私が夕方海から帰ってくると、家の玄関先に、ザルいっぱいに入ったイセエビが置かれていることがよくあった。おんちゃんが持ってきてくれたのだ。イセエビ漁をしていたおんちゃんは、網から外す際に脚が折れたエビを、惜しげもなくよく食べさせてくれた。
お返しと言うわけではなかったが、エビ網が岩に挟まって揚がらなくなったとき、私が潜って外してあげたこともあった。
また私の海からの帰りが遅いと、ムクを連れて散歩してくれた。おんちゃんが連れ歩くムクは島での人気者だった。そんなおんちゃんは、小柄な体格ながら沖サワラを捕る名人でもあった。

エビ網を繕うけんこうおんちゃん
「サワラ型」と電気銛

サワラ型。写真では取り外されているが、使うときはアワビの殻を磨いて作った目が取り付けられる
この伝統漁というのは、捕る魚と同じほどの大きさで、色や形も似せて作った、布製の「サワラ型」という、こいのぼりのようなものを使う方法だ。立体感を出すために、胴体の内側には竹ひごで作った骨組みを入れる。
潮があたるような磯の近くで船を流しながら、竹ざおにつないだサワラ型を、あたかも泳いでいるかのように海の表層近くを泳がせるのだ。
すると、その型を「とぎ」と勘違いして、尾びれが水面に出るような状態でサワラが数十匹も集まってくる。そこを銛で突くというダイナミックな漁法だ。
大きな三つ叉の先にはワイヤが付いた銛先が付いており、魚に刺さると銛先が外れて抜けにくくなっている。
しかし魚が大型で暴れるため、回収率があまり良くなく、それを改良したのが電気銛だ。銛先に電流が流れるようにしてあり、銛が刺さった魚は、電気でビリビリっとやられておとなしくなるそうだ。

電気銛。銛先に電気コードが取り付けてある
「電気銛に変えてから、いっぱい捕れるようになったねぇ」とけんこうおんちゃんが話していたのを覚えている。
先日、けんこうおんちゃんのことを夕刊に書かせてもらってもいいでしょうかと、家を訪ねた。
「お父ちゃんも喜んじょるよ」と言ってくれたおばちゃんの視線の先には、優しそうな眼差しでこちらを見る、おんちゃんの遺影があった。お線香をあげながら、「新聞ができたら持ってくるけんね」と手を合わせた。
(センター長・神田 優)
けんこうおんちゃんの想い出
サワラ漁の電気銛を構えてくれた、今は亡きけんこうおんちゃんこと熊崎謙次郎さん(2002年、大月柏島)
最近時々大月町の古満目漁港に魚を買いに行く。古満目には共栄組合と水主組合の2つの大敷網があり、年間を通じて色んな魚が水揚げされる。そんな中、ひときわ大きな魚が揚がっていた。
沖サワラの伝統漁法
地元でサワラとか沖サワラと呼ばれるカマスサワラだ。大きいものでは2m、10kg以上にもなる。夏から秋が旬の魚で、柔らかい身だが刺身にすると美味しい。
古満目の市場に揚がった沖サワラ
この魚を見ると、昔学生時代に大変お世話になった漁師さんを思い出す。以前柏島にはこの魚を捕る独特の伝統漁法があり(宿毛湾では今もやっているところがあるようだ)、それを教えてくれたのがけんこうおんちゃんこと、故・熊崎謙次郎さんだた。6年前、83歳で亡くなられた。
今から20年ほど前、私がまだ高知大学の大学院生の頃、柏島に家を一軒借りて潜水調査をしていたことがある。島の北側にある後の浜に面した家で、私は愛犬ムクと一緒に生活していたのだが、その家の向かいに住んでおられたのが。けんこうおんちゃんだった。
私が夕方海から帰ってくると、家の玄関先に、ザルいっぱいに入ったイセエビが置かれていることがよくあった。おんちゃんが持ってきてくれたのだ。イセエビ漁をしていたおんちゃんは、網から外す際に脚が折れたエビを、惜しげもなくよく食べさせてくれた。
お返しと言うわけではなかったが、エビ網が岩に挟まって揚がらなくなったとき、私が潜って外してあげたこともあった。
また私の海からの帰りが遅いと、ムクを連れて散歩してくれた。おんちゃんが連れ歩くムクは島での人気者だった。そんなおんちゃんは、小柄な体格ながら沖サワラを捕る名人でもあった。
エビ網を繕うけんこうおんちゃん
「サワラ型」と電気銛
サワラ型。写真では取り外されているが、使うときはアワビの殻を磨いて作った目が取り付けられる
この伝統漁というのは、捕る魚と同じほどの大きさで、色や形も似せて作った、布製の「サワラ型」という、こいのぼりのようなものを使う方法だ。立体感を出すために、胴体の内側には竹ひごで作った骨組みを入れる。
潮があたるような磯の近くで船を流しながら、竹ざおにつないだサワラ型を、あたかも泳いでいるかのように海の表層近くを泳がせるのだ。
すると、その型を「とぎ」と勘違いして、尾びれが水面に出るような状態でサワラが数十匹も集まってくる。そこを銛で突くというダイナミックな漁法だ。
大きな三つ叉の先にはワイヤが付いた銛先が付いており、魚に刺さると銛先が外れて抜けにくくなっている。
しかし魚が大型で暴れるため、回収率があまり良くなく、それを改良したのが電気銛だ。銛先に電流が流れるようにしてあり、銛が刺さった魚は、電気でビリビリっとやられておとなしくなるそうだ。
電気銛。銛先に電気コードが取り付けてある
「電気銛に変えてから、いっぱい捕れるようになったねぇ」とけんこうおんちゃんが話していたのを覚えている。
先日、けんこうおんちゃんのことを夕刊に書かせてもらってもいいでしょうかと、家を訪ねた。
「お父ちゃんも喜んじょるよ」と言ってくれたおばちゃんの視線の先には、優しそうな眼差しでこちらを見る、おんちゃんの遺影があった。お線香をあげながら、「新聞ができたら持ってくるけんね」と手を合わせた。
(センター長・神田 優)
投稿:
きのこ
/2010年 11月 30日 16時 43分