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2010年12月24日(金) 高知新聞夕刊 魚の右利き、左利き
大月発 くろしお便り(黒潮実感センター)
アカエソに捕食されたカサゴ。このカサゴは右利き。わかりにくいかもしれないが、口はわずかに左に向いて開いている。
アカエソに捕食されたカサゴ。このカサゴは右利き。わかりにくいかもしれないが、口はわずかに左に向いて開いている。

            魚の右利き、左利き
 人間にも右利きと左利きがあるように、魚にも右利き左利きがあるのをご存知だろうか。今回は、そんなちょっと珍しい話を紹介しよう。

               アフリカ・タンガニイカ湖
 私の初めての海外旅行は1997年、アフリカ南部のザンビアだった。目的は魚の研究である。調査地は海ではなくタンガニイカ湖という、南北650km、東西平均50kmもある大きな湖だ。
調査をしていたタンガニイカ湖湖畔の集落
調査をしていたタンガニイカ湖湖畔の集落

 ここには250種以上の魚類が生息しており、その6割がシクリッド類(カワスズメ科)である。その時の調査隊長で現在京都大学教授の堀道雄さんが、魚類における左右性、つまり右利き、左利きについての研究をされており、いろいろ教えていただいたのである。
 右利き左利きといっても魚に手はないので、ここでは体つきの左右非対称性のことをいい、右半身が発達している魚を右利き、左半身が発達している魚を左利きという。

               鱗食い(スケールイーター)
 タンガニイカ湖には、他の魚の体から鱗(スケール)をはぎ取って食べる特殊な食性を持つ魚(スケールイーター)が7種類いる。彼らは餌とする自分より大型の魚の背後からしのびより、その魚に近づくと突進して、左もしくは右体側に口をあてがい、特殊な歯で鱗を引っぺがして喰うのである。
 
タンガニイカ湖の鱗食シクリッド。写真上の左右は左利き、下は右利き。魚を右から見たとき、左利きは口が右に曲がって開くため口の中が見えるが、左に曲がる右利きは見えない。
タンガニイカ湖の鱗食シクリッド。写真上の左右は左利き、下は右利き。魚を右から見たとき、左利きは口が右に曲がって開くため口の中が見えるが、左に曲がる右利きは見えない。

 そのため口はまっすぐ前に開くのではなく、右もしくは左側に著しく曲がって開く。口が右に曲がっているものは、餌となる魚の左体側を、左に曲がっているものは右体側を襲うことが知られている。口がまっすぐに開くよりも左右どちらかに曲がっている方が鱗に食らいつきやすく、理にかなっている。
 ここでいう右に口が曲がっている魚は左半身が発達しているので左利き、左に曲がっている魚を右利きという。この右利きと左利きは遺伝することがわかっているが、どうして魚に右利き左利きがあるのか、ということまでは分かっていない。
鱗食シクリッドが餌となる大きな魚を襲う模式図。左に口が開く右利き個体は左体側を狙う。左利きはその逆。
鱗食シクリッドが餌となる大きな魚を襲う模式図。左に口が開く右利き個体は左体側を狙う。左利きはその逆。

               少数派は有利!?
 スケールイータによって鱗を食べられる魚は、当然食べられないように警戒するものである。ここで面白いことが起きていく。
 左利きのスケールイーターが多い水域で、左体側を狙われる頻度が高くなると、必然的に左を特に警戒するようになる。そうすると左利きの魚の成功率は下がってしまうのだ。
そして、少数派の右利きの魚は警戒が薄くなった分成功率は上がり、より多く子どもを残して多数派となっていくことになる。
 その結果これまでの少数派が多数派に転じると多数派の成功率は下がるという現象が生じ、右利き左利きの比率は約5年周期で変動することが分かってきた。とても興味深い現象だ。(もっと知りたい方のために、最後に参考図書を挙げておく)

               全ての魚に「利き」がある
 さて、これまでは鱗食いという特殊な食べ方をする魚だけに「利き」があるように考えられてきたが、実は全ての魚にがあることが最近明らかにされつつある。また、口の開き具合だけでなく、全身の筋肉や、骨格、神経の発達にも左右差があることがわかってきた。
 それでは、「左ヒラメに右カレイ」にも右利き左利きがあるかといわれそうだが、実はあるようだ。ただし先の鱗食いのように顕著ではないので見分けにくいかもしれない。
 釣り人なら魚を釣ったとき、よく下顎に指を引っかけてグイッと口を開けて持つことがあるだろう。その時によく見てもらいたい。口が左右どちらかに微妙にゆがんで開いているはずだ。
体全体が右を向くように弧を描いている左利きのマトウダイ。口は右向き。
体全体が右を向くように弧を描いている左利きのマトウダイ。口は右向き。

こちらも同様に左利きのホウボウ。口は右向き。
こちらも同様に左利きのホウボウ。口は右向き。

 もう一つ左右性がわかりやすい例を紹介しよう。それは体の反りである。体の反りは干すことで容易にわかる。堀さんと一緒にタンガニイカ湖で調査をしていたときに、重力が均等にかかるように洗濯ばさみで魚の背びれをつまみロープに吊し、陰干しすると、口の開きで左右性を確かめた結果と同じ方向に反ったことを覚えている。ひょっとしたらいりこの体の反りにも左右性が表れているのかもしれない。
背びれを洗濯ばさみで留めて干しているシクリッド(1997年タンガニイカ湖)
背びれを洗濯ばさみで留めて干しているシクリッド(1997年タンガニイカ湖)

 年末の忘年会シーズンまっただ中、活け造りの魚の口を持って「この魚は右利きだね」なんてうんちくをたれるのも一興かもしれない。是非おためしあれ。

参考図書
シップ・アンド・オーシャン財団海洋政策研究所・日本海洋学会「海のトリビア」(日本教育新聞社)
中嶋美冬「魚の右利き左利き」『月刊アクアネット』2005年11月号 pp.18-20
堀道雄編「タンガニイカ湖の魚たち 多様性の謎を探る シリーズ地球共生系」 (平凡社)

               (センター長・神田 優)


更新: Kanda /2011年 02月 01日 14時 43分

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