2011年8月20日(土) 高知新聞朝刊 人を怖じない魚たち
大月発 くろしお便り(黒潮実感センター)

シュノーケリングで海に潜っても魚たちは人を恐れず、手で触れそうな所まで近寄れる(いずれも大月町柏島)
恒例のサマースクール
今年の夏も大月町柏島で、黒潮実感センター主催の子どもサマースクールや親子サマースクール、成人向けエコツアーを連日開催しているが、シーズンもいよいよ終盤に近づいてきた。
サマースクールの目玉は何といっても透明度の高い海でのシュノーケリング。最近は底が透明なクリアカヌーも人気だ。初めて参加する子も多いが、数年間連続で10回近く参加するリピーターも多い。今年は7割ほどがリピーターで占められるツアーもあった。
サマースクール初日、宿毛駅に迎えに行くと、汽車から降りてきた子どもたちが「ボス〜(子どもたちが付けた私のキャンプネーム)」と大声で呼びながら走り寄ってきてくれる。1年ぶりに会う子どもたちは、皆スクスクと成長していてうれしくなる。
リピーターはこれから始まるサマースクールに思いをはせはしゃいでいる。初めての子どもたちは、どんなことをするんだろうと少々不安げだが、柏島までの車内では皆が一緒になって、昨年の海の話や「今年は何するが〜?」と大はしゃぎである。そうこうしているうちに大堂トンネルを抜け、海が見えてくる。「ボス、なんか道がようなったねぇ」と、今年全線開通した2車線道路を走りながら子どもが言った。

サマースクールでシュノーケリングをする子どもたち
こんなに近くで
サマースクールやエコツアーで来るお客さんが、柏島でシュノーケリングやダイビングをしたあと口々に言われるのが、「沖縄や海外の海にも行ったことがあるけれど、こんな近くでこんなにいっぱいの魚を見られるところはなかった。ここの魚は人が近づいても逃げないのはなぜですか?」という質問だ。
私自身それこそが柏島の海の魅力だと思っている。二十数年前初めて柏島の海に潜ったときに、衝撃的だったのがまさに「魚が怖じない」ことだった。あのときの私の感動を、二十数年たった今また別のお客さんと共有できるなんて、なんて素晴らしいことだろうか。
里海構想の原点
人が海からの恵みを一方的に享受するだけでなく、人も海を耕し、育み、守る。人と海が共存する場所、それが里海。
素晴らしい海中景観や多種多様な魚たちが群れ泳ぐ手つかずの海は世界各地にはまだある。しかしそれらは人の生活しているところから遠く離れ、ダイビングボートで何時間も行かなければならないような場所である。
それが柏島では人の生活のすぐそばに日本一の1千種類を超える魚たちが、人を怖がることなく生息している。先人が長い年月育んできた、人と海との良い関係があったからこそ残された貴重な自然がここにはある。まさに里海だと感じた。私の里海構想の原点はこの海から始まった。

巨大なオオサンゴイソギンチャクのまわりで泳ぐクマノミたち(アクアス提供)

シコロサンゴ群集のまわりに群れるクロホシイシモチの大群(アクアス提供)
いつまでも楽しめる海に
最近その魚たちに異変が起こっている。竜の浜に今年、浜まで降りていける道が付いた。まだそれほど多くの人が来ているわけではないが、海水浴やシュノーケリングを楽しむお客さんの中でよく目立つのが、ヤスや大きなタモ網を持った人たちだ。
竜の浜はスキューバダイビングやシュノーケリング、グラスボートを楽しむお客さんらが愛くるしい魚たちを見るために利用している。そんな魚たちの中に、ヤスで傷ついた魚や、突かれた傷がもとで海底に横たわった無惨姿の魚が最近特に目に付く。一昔前より魚の数が減り、魚と人との距離が広がったように思えるのは私だけではあるまい。
大月町では竜の浜にエコロジーキャンプ場の様な施設を作る計画が進んでいる。アクセスも良くなって、多くの人が柏島の海で泳ぎ感動してくれるのは良いことだが、先人が守ってきた人と海との良い関係がこの先壊れないよう、持続的利用と保全に関する早急なルール作りが求められている。
柏島に遊びに来られる皆さん、島の宝は高知の宝、日本の宝、ひいては世界の宝でもあります。いつまでもこの里海があり続けられますように、皆さんのご協力をよろしくお願いいたします。
(センター長・神田優)
シュノーケリングで海に潜っても魚たちは人を恐れず、手で触れそうな所まで近寄れる(いずれも大月町柏島)
恒例のサマースクール
今年の夏も大月町柏島で、黒潮実感センター主催の子どもサマースクールや親子サマースクール、成人向けエコツアーを連日開催しているが、シーズンもいよいよ終盤に近づいてきた。
サマースクールの目玉は何といっても透明度の高い海でのシュノーケリング。最近は底が透明なクリアカヌーも人気だ。初めて参加する子も多いが、数年間連続で10回近く参加するリピーターも多い。今年は7割ほどがリピーターで占められるツアーもあった。
サマースクール初日、宿毛駅に迎えに行くと、汽車から降りてきた子どもたちが「ボス〜(子どもたちが付けた私のキャンプネーム)」と大声で呼びながら走り寄ってきてくれる。1年ぶりに会う子どもたちは、皆スクスクと成長していてうれしくなる。
リピーターはこれから始まるサマースクールに思いをはせはしゃいでいる。初めての子どもたちは、どんなことをするんだろうと少々不安げだが、柏島までの車内では皆が一緒になって、昨年の海の話や「今年は何するが〜?」と大はしゃぎである。そうこうしているうちに大堂トンネルを抜け、海が見えてくる。「ボス、なんか道がようなったねぇ」と、今年全線開通した2車線道路を走りながら子どもが言った。
サマースクールでシュノーケリングをする子どもたち
こんなに近くで
サマースクールやエコツアーで来るお客さんが、柏島でシュノーケリングやダイビングをしたあと口々に言われるのが、「沖縄や海外の海にも行ったことがあるけれど、こんな近くでこんなにいっぱいの魚を見られるところはなかった。ここの魚は人が近づいても逃げないのはなぜですか?」という質問だ。
私自身それこそが柏島の海の魅力だと思っている。二十数年前初めて柏島の海に潜ったときに、衝撃的だったのがまさに「魚が怖じない」ことだった。あのときの私の感動を、二十数年たった今また別のお客さんと共有できるなんて、なんて素晴らしいことだろうか。
里海構想の原点
人が海からの恵みを一方的に享受するだけでなく、人も海を耕し、育み、守る。人と海が共存する場所、それが里海。
素晴らしい海中景観や多種多様な魚たちが群れ泳ぐ手つかずの海は世界各地にはまだある。しかしそれらは人の生活しているところから遠く離れ、ダイビングボートで何時間も行かなければならないような場所である。
それが柏島では人の生活のすぐそばに日本一の1千種類を超える魚たちが、人を怖がることなく生息している。先人が長い年月育んできた、人と海との良い関係があったからこそ残された貴重な自然がここにはある。まさに里海だと感じた。私の里海構想の原点はこの海から始まった。
巨大なオオサンゴイソギンチャクのまわりで泳ぐクマノミたち(アクアス提供)
シコロサンゴ群集のまわりに群れるクロホシイシモチの大群(アクアス提供)
いつまでも楽しめる海に
最近その魚たちに異変が起こっている。竜の浜に今年、浜まで降りていける道が付いた。まだそれほど多くの人が来ているわけではないが、海水浴やシュノーケリングを楽しむお客さんの中でよく目立つのが、ヤスや大きなタモ網を持った人たちだ。
竜の浜はスキューバダイビングやシュノーケリング、グラスボートを楽しむお客さんらが愛くるしい魚たちを見るために利用している。そんな魚たちの中に、ヤスで傷ついた魚や、突かれた傷がもとで海底に横たわった無惨姿の魚が最近特に目に付く。一昔前より魚の数が減り、魚と人との距離が広がったように思えるのは私だけではあるまい。
大月町では竜の浜にエコロジーキャンプ場の様な施設を作る計画が進んでいる。アクセスも良くなって、多くの人が柏島の海で泳ぎ感動してくれるのは良いことだが、先人が守ってきた人と海との良い関係がこの先壊れないよう、持続的利用と保全に関する早急なルール作りが求められている。
柏島に遊びに来られる皆さん、島の宝は高知の宝、日本の宝、ひいては世界の宝でもあります。いつまでもこの里海があり続けられますように、皆さんのご協力をよろしくお願いいたします。
(センター長・神田優)
投稿:
ちー
/2011年 09月 02日 15時 48分