2011年9月17日(土) 高知新聞朝刊 砂潜り名人 アサヒガニ
大月発 くろしお便り(黒潮実感センター)

「ギョエー」と声が聞こえてきそうなほど驚いているアサヒガニのカップル。先に潜ったオスと出遅れたメス (アクアス提供=写真はいずれも大月町柏島)
前に歩く
今日は彼女とデートの日。いつもは砂の中に潜み、目だけ出しているアサヒガニだが今日は違う。「俺について来なよ」。砂紋が美しい砂の上をオス、メス2匹のアサヒガニが前後に並んでえっちらおっちら歩いている。
「あなたぁ、ちょっと待ってよぉ。もう、そんなにさっさと行かないでよぅ」なんて声が聞こえそうなほど、仲良し具合が伝わってくる何ともほほえましい光景を、水面でシュノーケリングしながら追いかける。「ん?、カニは前に歩くんだっけ?」
「カニは横に歩くもんだって?誰が決めたんだそんなこと。俺たちゃ昔から前歩きだぜ。」と言いたげな様子のアサヒガニを、もっと近くに見ようと静かに海底に潜っていった。
「げげ、やば!人間だぁ。おいお前、早く砂に潜るんだー。」「え?、なに、聞こえないよぉ。どうして急に潜ってんのよぅ」と上を見あげたメス。「きゃー、人間よぉー」。必死に潜ろうともがく2匹のアサヒガニ。「ギョエー、どないしょうー」といったような驚きの形相だが、それで目が飛び出たわけではない。もともとこんな顔である。
スコップみたい
2匹は必死で砂を掘り、体がズンズン沈んでいく。今度はおしりからバックで進んでいく。前歩きが得意かと思いきや、実は後歩きで砂に潜る名人なのだ。砂を掘るのに非常に適した、先のとがったスコップのような形状の足先を巧みに使い潜っていく。
危険を察知し、いったん潜り始めたらかなり深いところまで潜っていく。捕まえようと砂に手を突っ込み、甲羅を持って引きずり出そうにも、腕が肘近くまで砂に引きずり込まれることもある。
そうなるといくら引っ張っても、ハサミを砂の中で大きく拡げ踏ん張るカニにはかなわない。引きずり出せるかどうかは最初の勝負で決まる。手首までで押えることができれば引っ張り出せる。
あえなくこのカップルは捕らえられ、まな板の上のコイならぬ、船上のカニとなった。船のいけすに入れたところどうも落ち着かない様子で、しばらく前進後進を繰り返していたが、そのうちひっくり返って死んだふりを始めてしまった。
少しの間観察させてもらうのが目的なので、彼らのストレスを和らげようと、砂を敷き詰めたタライをいけすの中に沈めてやった。すると見る見る間に砂に潜り、ぴょこんと潜望鏡のような目だけを出してあたりを警戒している。

砂に潜りマッチ棒のような目だけを出しているところ
フンドシだらり?
皆さん、カニの雌雄はどこで見分けるかご存じだろうか?「そりゃフンドシよぉ」と返事が返ってきそうである。そう、カニ類の雌雄は甲羅の裏側にある腹部の形状で見分ける。その形状からフンドシと呼ばれる。オスは幅が狭く、メスは抱卵するために幅が広く良く発達している。

アサヒガニの雌雄(左側がメス、右側がオス。フンドシの大きさの違いに注目)
ではエビとカニの違いはというと、わかりやすく言えば腹部が長く後方に伸びているのがエビ(長尾類)、短いのがカニ(短尾類)といえる。
一般的には甲羅の裏側に張り付くようにして収納されているカニのフンドシであるが、これがアサヒガニではやや不完全で、腹部は体の後部に伸びている。オスもメスもフンドシだらりで、あまりカニっぽくないのである。
美味!プリップリ
このアサヒガニ、実は食べると非常にうまいのである。塩ゆでが最高だと私は思う。ハサミは平たく、全体的に工具のスパナーに似ているため英語では「スパナークラブ(SPANNER CRAB)」と呼ばれる。

「シェー!」のポーズをとってくれた。スパナーのようなハサミ脚と砂堀り用のスコップのような歩脚に注目
で、どこを食べるかというと、マツバガニのような大きなハサミもなく、脚にもそれほど肉は詰まっていないが、体をなし割にすると身が飛び出してくるほどに詰まっている。
このまっしろな身は甘味があり、とてもうまい。私の大好物なカニでもある。国産のものは漁獲があまり多くないこともあり結構高値だが、オーストラリアからの輸入物が多く出回っており、こちらは手頃な値段で買える。
撮影協力に感謝
今回のアサヒガニのカップルは撮影後、船のいけすの中でお礼のキビナゴを与えた後、海に帰した。よほど腹が減っていたのか砂に潜っていたのにすぐにはい出し、キビナゴをハサミでつまむやいなや砂に潜り食べ始めた。
その後、海に逃がしたカニは海底に着くなり一目散に潜っていき、姿を消した。九死に一生を得た思いだろうか。せっかくのデートを台無しにしてしまいごめんなさい。
(センター長・神田優)
「ギョエー」と声が聞こえてきそうなほど驚いているアサヒガニのカップル。先に潜ったオスと出遅れたメス (アクアス提供=写真はいずれも大月町柏島)
前に歩く
今日は彼女とデートの日。いつもは砂の中に潜み、目だけ出しているアサヒガニだが今日は違う。「俺について来なよ」。砂紋が美しい砂の上をオス、メス2匹のアサヒガニが前後に並んでえっちらおっちら歩いている。
「あなたぁ、ちょっと待ってよぉ。もう、そんなにさっさと行かないでよぅ」なんて声が聞こえそうなほど、仲良し具合が伝わってくる何ともほほえましい光景を、水面でシュノーケリングしながら追いかける。「ん?、カニは前に歩くんだっけ?」
「カニは横に歩くもんだって?誰が決めたんだそんなこと。俺たちゃ昔から前歩きだぜ。」と言いたげな様子のアサヒガニを、もっと近くに見ようと静かに海底に潜っていった。
「げげ、やば!人間だぁ。おいお前、早く砂に潜るんだー。」「え?、なに、聞こえないよぉ。どうして急に潜ってんのよぅ」と上を見あげたメス。「きゃー、人間よぉー」。必死に潜ろうともがく2匹のアサヒガニ。「ギョエー、どないしょうー」といったような驚きの形相だが、それで目が飛び出たわけではない。もともとこんな顔である。
スコップみたい
2匹は必死で砂を掘り、体がズンズン沈んでいく。今度はおしりからバックで進んでいく。前歩きが得意かと思いきや、実は後歩きで砂に潜る名人なのだ。砂を掘るのに非常に適した、先のとがったスコップのような形状の足先を巧みに使い潜っていく。
危険を察知し、いったん潜り始めたらかなり深いところまで潜っていく。捕まえようと砂に手を突っ込み、甲羅を持って引きずり出そうにも、腕が肘近くまで砂に引きずり込まれることもある。
そうなるといくら引っ張っても、ハサミを砂の中で大きく拡げ踏ん張るカニにはかなわない。引きずり出せるかどうかは最初の勝負で決まる。手首までで押えることができれば引っ張り出せる。
あえなくこのカップルは捕らえられ、まな板の上のコイならぬ、船上のカニとなった。船のいけすに入れたところどうも落ち着かない様子で、しばらく前進後進を繰り返していたが、そのうちひっくり返って死んだふりを始めてしまった。
少しの間観察させてもらうのが目的なので、彼らのストレスを和らげようと、砂を敷き詰めたタライをいけすの中に沈めてやった。すると見る見る間に砂に潜り、ぴょこんと潜望鏡のような目だけを出してあたりを警戒している。
砂に潜りマッチ棒のような目だけを出しているところ
フンドシだらり?
皆さん、カニの雌雄はどこで見分けるかご存じだろうか?「そりゃフンドシよぉ」と返事が返ってきそうである。そう、カニ類の雌雄は甲羅の裏側にある腹部の形状で見分ける。その形状からフンドシと呼ばれる。オスは幅が狭く、メスは抱卵するために幅が広く良く発達している。
アサヒガニの雌雄(左側がメス、右側がオス。フンドシの大きさの違いに注目)
ではエビとカニの違いはというと、わかりやすく言えば腹部が長く後方に伸びているのがエビ(長尾類)、短いのがカニ(短尾類)といえる。
一般的には甲羅の裏側に張り付くようにして収納されているカニのフンドシであるが、これがアサヒガニではやや不完全で、腹部は体の後部に伸びている。オスもメスもフンドシだらりで、あまりカニっぽくないのである。
美味!プリップリ
このアサヒガニ、実は食べると非常にうまいのである。塩ゆでが最高だと私は思う。ハサミは平たく、全体的に工具のスパナーに似ているため英語では「スパナークラブ(SPANNER CRAB)」と呼ばれる。
「シェー!」のポーズをとってくれた。スパナーのようなハサミ脚と砂堀り用のスコップのような歩脚に注目
で、どこを食べるかというと、マツバガニのような大きなハサミもなく、脚にもそれほど肉は詰まっていないが、体をなし割にすると身が飛び出してくるほどに詰まっている。
このまっしろな身は甘味があり、とてもうまい。私の大好物なカニでもある。国産のものは漁獲があまり多くないこともあり結構高値だが、オーストラリアからの輸入物が多く出回っており、こちらは手頃な値段で買える。
撮影協力に感謝
今回のアサヒガニのカップルは撮影後、船のいけすの中でお礼のキビナゴを与えた後、海に帰した。よほど腹が減っていたのか砂に潜っていたのにすぐにはい出し、キビナゴをハサミでつまむやいなや砂に潜り食べ始めた。
その後、海に逃がしたカニは海底に着くなり一目散に潜っていき、姿を消した。九死に一生を得た思いだろうか。せっかくのデートを台無しにしてしまいごめんなさい。
(センター長・神田優)
投稿:
ちー
/2011年 09月 21日 10時 05分