2011年10月20日(土) 高知新聞朝刊 黒潮が近づく季節
透明度30mを超える秋の海カマスとキンギョハナダイの群れ
高い透明度
どこまでも続く澄んだ青の世界。黒潮が最も高知県に接岸する秋は最も海の透明度が高くなる季節だ。ところで黒潮とはどういう海流かご存じだろうか。
黒潮は赤道と平行に西に流れる北赤道海流が、フィリピン・ルソン島東南部、北緯12〜13度にあるカタンドアネス島付近にぶつかり、北向きに流れ始めるところを源流域に持つ、世界最大規模の暖流である。
幅は100km以上、深さは数百メートルにおよび、表面の流れの早さは中心部で毎秒2m(時速7.2km)を超え、海の真ん中にまるで川が流れているようであるため、古くは「黒瀬川」とも呼ばれていた。
非常に貧栄養で透明度が高いため(透明度30m以上)、反射する光の量が少なく海の色が黒く見えるところから「黒潮」という名前が付いた。
海の砂漠
一般的に黒潮は豊かな海と捉えられているが本当にそうだろうか?黒潮は非常に貧栄養で透明度が高いと述べたが、透明度とはいったい何だろう?わかりやすく言えば、どれくらい水がきれいか汚いかを簡単に示す方法である。
透明度が低いというのは水の中に混じりものが多いと言うことを意味する。その混じりものとは植物プランクトンであったりする。海洋で植物プランクトンが増えるためには窒素やリンのような物質が必要で、これらを「栄養塩」と呼ぶ。その量が多いことを「富栄養」、少ないことを「貧栄養」という。
栄養塩が多いと植物プランクトンが多く増え、その結果それらを食べる動物プランクトンが集まり、それを食べる魚が増えるため(このようなエネルギーの流れを食物連鎖と呼ぶ)そのような海域は生産性が高い、つまり生き物の量が多い海といえる。
そう考えると黒潮は貧栄養なため、植物プランクトンの生産がほとんどなく、食物連鎖によるエネルギーの流れが非常に少ないため、黒潮の中に生息する生物の量は極めて乏しく、「海の砂漠」とまで言われている。つまり、黒潮は決して「豊かな海」ではないといえる。
ではなぜ「黒潮の恵み」といわれるのであろうか? これは黒潮という暖流に乗って様々な魚類が南方から回遊してくると共に、黒潮周辺の生物生産が高い海域からも小型の魚類が黒潮に入り込み、それを餌にして育ったカツオやマグロなどの大型魚類が黒潮流域で漁獲されるからである。
季節来遊魚
さて、ダイビングの季節は夏と皆さん思いがちだが、実は秋こそ最も適したシーズンなのである。
黒潮が最も接岸するこの季節、透明度は増し、暖流黒潮の影響で海水温も24℃〜26℃と温かく、さらに南の海から亜熱帯性の魚類の稚魚が大量に流れ着いてくる。そのため秋はもっとも多くの魚種が見られるという特徴を持つ。
南方系の魚の中には流れ着いたものの冬の低水温を乗り切れず、死んでしまうものもいる。これらを以前は死滅回遊魚と呼んでいたが、本質的に回遊ではないことや、繁殖に寄与しない分散という意味で無効分散、あるいは季節来遊魚と呼ぶようになった。
柏島でも毎年多くの稚魚たちが姿を見せては翌年の春には姿を消していたのだが、近年地球温暖化の影響による海水温の上昇により、無事冬を越し定着するものも増えてきた。
秋に見かけた南方系の稚魚が、翌年一回り大きく成長し見られるのを見るにつけ、よく乗り切ったなとうれしくなる反面、刻々と変化する地球規模の温暖化による環境変化を実感する。これから先、この海はどうなっていくのであろうか、複雑な心境である。
(センター長・神田 優)
季節来遊魚のヒオドシベラの幼魚(アクアス提供)
季節来遊魚のニシキヤッコの幼魚(アクアス提供)
季節来遊魚のイロブダイの幼魚(ポレポレダイブ提供)

季節来遊魚であったが定着しているニシキフウライウオ成魚(ポレポレダイブ提供)
更新:
きのこ
/2011年 11月 18日 11時 20分