2012年1月21日(土)高知新聞朝刊 ひょっとこ顔の大衆魚
大月発 くろしお便り(黒潮実感センター)
年が明けたと思ったら、もうすぐ節分だ。節分の日には豆まきで鬼を追い払うのが一般的だが、魔除けのためにイワシの頭を柊の枝に刺して戸口に刺す風習も残っている。柊の葉の縁には先が鋭い棘があり、触るとチクチクと痛い。ところで魚にもヒイラギという名前のものがいるのをご存じだろうか。
といってもピンと来ない方が多いだろうが、高知ではニロギが通り名である。ヒイラギの名前は、薄っぺらな体でヒレには鋭い棘が発達していることから、柊の葉に似ているので名付けられたと言われている。ちなみに高知のニロギは、紀州での呼び名、ニイラギがなまったという説がある。
沖ニロギと内ニロギ
ニロギと一口に言っても実は2種類(他にもヒメヒイラギなどがいるが)いて、浦戸湾内や河口などの汽水域で釣れる体長10〜15cmのものと、干物としてよく売られている体長5〜7cmのものがある。
一般的なのは小型の干物で売られている方で、標準和名をオキヒイラギという。オキヒイラギは水深30〜70mの比較的深い沖合に生息し、底引き網で漁獲される。冬から春にかけてが旬で、高知市御畳瀬の一日干しが有名だ。
一方釣りをされる人ならよく知っているやや大きいものはヒイラギという。内湾や河口域などの水深5〜10mの浅いところに生息し、旬は秋で9〜11月になると脂ののりが良くなる。
これらを区別するために、オキヒイラギのことを沖ニロギ、ヒイラギのことを内ニロギと高知では呼ぶ。
浦戸湾の風物詩
高知では、古くから船で繰り出し、ニロギ釣りをするのが浦戸湾の風物詩であった。古い写真には数十隻の小舟が湾内に所狭しと浮かび、ニロギ釣りを楽しんでいる様子が写っている。
昨年の10月に四国一周海遍路の最中、シーカヤックで種崎から鏡川まで漕いだ折にも、玉島付近には船が幾そうも集まり、子どもから大人までが楽しそうにニロギを釣っていた。
カブラ(サビキ)仕掛で釣り上げられたニロギが、ピラピラしながら海面から上がってくる度に子ども達の歓声が上がっていた。
ヒイラギの仲間は、通常口をつぐんだ状態の時には普通の魚のようだが、餌を採る際には口先を前下方に筒のように突出させ、砂泥地の小動物を吸い込むようにして食べる。その表情はまるでひょっとこのようにユーモラスだ。
絶品ニロギ汁
海遍路で高知市に立ち寄った際、高知県漁協の野々村重利副組合長が高知の味をごちそうするといってもてなしてくださった。カツオのたたきはもちろん、チダイやアジ、ヒラメの刺身やウナギ、オキウルメやメヒカリの干物などなど、土佐沖から浦戸湾の恵みのフルコース。その中でも、この日のために取り寄せてくれた大きなニロギを惜しみなく使った汁は格別の味だった。
新鮮なニロギは大量に出るヌメリを取らずそのまま水から鍋に入れ、塩としょうゆの薄味で味付けし、豆腐やリュウキュウ、シュンギクなど季節の野菜を入れていただく。汁の表面にはニロギからでた脂がポツポツ浮かび、何とも言えない上品なダシがきいていて何杯もおかわりした。
県外では内ニロギを珍重するところはほとんど無く、釣れても捨てられてしまう事が多いが、薄っぺらでたいした身も付いていないけれど、そこから出る上品なダシで野菜やお豆腐を食べるという、高知独特の食文化は大いに自慢できるものだろう。
一方沖ニロギの方はもっとポピュラーで、干した沖ニロギを軽くあぶり、それを二杯酢か三杯酢に浸けて食べるとこれまた絶品で、ほんのり甘みのある身と苦みのあるワタが口の中でコラボし、日本酒がいくらでも進むというものだ。沖ニロギで一杯やったあと、締めに内ニロギの汁をすするというのは何とも至福の喜びである。
カツオのたたきに代表される豪快な料理が注目されがちな土佐料理だが、ニロギ汁に代表されるような細やかで上品な味も土佐らしい料理だと思う。この緩急を付けた様な料理、うんちく付きで東京のアンテナショップのメニューに加えてみてはどうだろう。
(センター長・神田優)
(今回の執筆にあたり、元室戸岬漁協組合長の山田長生さん、高知県漁協副組合長の野々村重利さんにご協力いただきました)
年が明けたと思ったら、もうすぐ節分だ。節分の日には豆まきで鬼を追い払うのが一般的だが、魔除けのためにイワシの頭を柊の枝に刺して戸口に刺す風習も残っている。柊の葉の縁には先が鋭い棘があり、触るとチクチクと痛い。ところで魚にもヒイラギという名前のものがいるのをご存じだろうか。
といってもピンと来ない方が多いだろうが、高知ではニロギが通り名である。ヒイラギの名前は、薄っぺらな体でヒレには鋭い棘が発達していることから、柊の葉に似ているので名付けられたと言われている。ちなみに高知のニロギは、紀州での呼び名、ニイラギがなまったという説がある。
沖ニロギと内ニロギ
ニロギと一口に言っても実は2種類(他にもヒメヒイラギなどがいるが)いて、浦戸湾内や河口などの汽水域で釣れる体長10〜15cmのものと、干物としてよく売られている体長5〜7cmのものがある。
一般的なのは小型の干物で売られている方で、標準和名をオキヒイラギという。オキヒイラギは水深30〜70mの比較的深い沖合に生息し、底引き網で漁獲される。冬から春にかけてが旬で、高知市御畳瀬の一日干しが有名だ。
一方釣りをされる人ならよく知っているやや大きいものはヒイラギという。内湾や河口域などの水深5〜10mの浅いところに生息し、旬は秋で9〜11月になると脂ののりが良くなる。
これらを区別するために、オキヒイラギのことを沖ニロギ、ヒイラギのことを内ニロギと高知では呼ぶ。
浦戸湾の風物詩
高知では、古くから船で繰り出し、ニロギ釣りをするのが浦戸湾の風物詩であった。古い写真には数十隻の小舟が湾内に所狭しと浮かび、ニロギ釣りを楽しんでいる様子が写っている。
昨年の10月に四国一周海遍路の最中、シーカヤックで種崎から鏡川まで漕いだ折にも、玉島付近には船が幾そうも集まり、子どもから大人までが楽しそうにニロギを釣っていた。
カブラ(サビキ)仕掛で釣り上げられたニロギが、ピラピラしながら海面から上がってくる度に子ども達の歓声が上がっていた。
ヒイラギの仲間は、通常口をつぐんだ状態の時には普通の魚のようだが、餌を採る際には口先を前下方に筒のように突出させ、砂泥地の小動物を吸い込むようにして食べる。その表情はまるでひょっとこのようにユーモラスだ。
絶品ニロギ汁
海遍路で高知市に立ち寄った際、高知県漁協の野々村重利副組合長が高知の味をごちそうするといってもてなしてくださった。カツオのたたきはもちろん、チダイやアジ、ヒラメの刺身やウナギ、オキウルメやメヒカリの干物などなど、土佐沖から浦戸湾の恵みのフルコース。その中でも、この日のために取り寄せてくれた大きなニロギを惜しみなく使った汁は格別の味だった。
新鮮なニロギは大量に出るヌメリを取らずそのまま水から鍋に入れ、塩としょうゆの薄味で味付けし、豆腐やリュウキュウ、シュンギクなど季節の野菜を入れていただく。汁の表面にはニロギからでた脂がポツポツ浮かび、何とも言えない上品なダシがきいていて何杯もおかわりした。
県外では内ニロギを珍重するところはほとんど無く、釣れても捨てられてしまう事が多いが、薄っぺらでたいした身も付いていないけれど、そこから出る上品なダシで野菜やお豆腐を食べるという、高知独特の食文化は大いに自慢できるものだろう。
一方沖ニロギの方はもっとポピュラーで、干した沖ニロギを軽くあぶり、それを二杯酢か三杯酢に浸けて食べるとこれまた絶品で、ほんのり甘みのある身と苦みのあるワタが口の中でコラボし、日本酒がいくらでも進むというものだ。沖ニロギで一杯やったあと、締めに内ニロギの汁をすするというのは何とも至福の喜びである。
カツオのたたきに代表される豪快な料理が注目されがちな土佐料理だが、ニロギ汁に代表されるような細やかで上品な味も土佐らしい料理だと思う。この緩急を付けた様な料理、うんちく付きで東京のアンテナショップのメニューに加えてみてはどうだろう。
(センター長・神田優)
(今回の執筆にあたり、元室戸岬漁協組合長の山田長生さん、高知県漁協副組合長の野々村重利さんにご協力いただきました)
更新:
ちー
/2012年 01月 23日 15時 31分