2012年6月9日(土)高知新聞朝刊 脱皮する魚!?
大月発 くろしお便り

金色のボロカサゴ。周囲から完全に浮いているように見える(アクアス提供)大月町柏島
柏島の海には岩礁、藻場、サンゴ、砂地、転石など様々な環境があり、海に潜っていると多様な魚たちの生き様に触れることができる。岩の上に生えている藻を無心でついばんで食べる藻食魚、潮の流れに乗ってくるプランクトンをパクパク食べるプランクトン食魚、そして魚を食べる魚食魚など、食性も多様である。食べる側はいつも食べる側ではなく、食べられる側にもなりうる。食べられる側の魚はいかにして食べられないようにするか?周囲の環境にとけ込み、海藻やサンゴに擬態するものもいれば、高い遊泳力で逃げ切るもの、的を絞られないように群れで行動するもの、サンゴなどの狭い隙間をすばやく縫うようにして泳ぐものなど、こちらも実に多様である。
「擬態あれこれ」
擬態とは生物やヒトが、その色彩や形、行動によって周囲の環境(地面や植物、他者等)と容易に見分けがつかないような効果を上げることを意味する。カモフラージュともいう。擬態には隠蔽(いんぺい)擬態といって、自分が他の動物から捕食される可能性がある場合、周囲の植物や地面そっくりな姿をすることで、捕食者から発見されないようにするものと、攻撃擬態といって、捕食者が周囲の植物や地面の模様そっくりな姿をすることで、獲物に気づかれないようにする2つのタイプがある。
隠蔽擬態の名手としてはピグミーシーホースというタツノオトシゴの仲間がいる。体長わずか1cmたらず。ウミウチワというサンゴの枝に擬態し、体表にはウミウチワのポリプそっくりの突起があり、動きを止めると全くその存在がわからない。

ピグミーシーホース。フラッシュで浮き上がって見えるが肉眼ではサンゴと見分けがつきにくい
攻撃擬態する魚にはカサゴやオコゼのたぐいが多い。オニカサゴやオニダルマオコゼなどは周囲の岩に化け、ひたすらじっと岩になりすまし、餌が射程範囲に入るやいなや、目にもとまらぬ早業でひと飲みにする。オニダルマオコゼなどは擬態にかなりの自信があるのか、あるいは背中に猛毒の針を持っているからなのか、こちらがモノでつつくぐらいのことをしないと微動だにしない。岩と思って知らずに足で踏んづけたりすると刺されて大変なことになる。これらは擬態して動かないことで餌を取る例である。
カエルアンコウの仲間も体色を周囲の岩やカイメンなどに擬態して待ち伏せするタイプだが、前者よりもより積極的な行動をとる。額から延びている棒状の「釣り竿」(背びれが変化したモノ)の先端にある「エスカ」と呼ばれる疑似餌をひらひらさせ、それを餌と思って寄ってくる魚を丸呑みにする。

クマドリカエルアンコウ。こんなに派手でもカイメン類の横に寄り添うとわかりづらくなる(アクアス提供)
「まるで酔っ払い」
次に紹介するのは柏島でもまれにしか見られないボロカサゴである。いつも思うことだが、この魚はなぜか目立っている。周囲にとけ込むようにして餌をとる仲間が多い中、本種はひときわ浮いたような体色をしているように見える。ひげもじゃらの独特な風貌は、若魚でもすでにおじいさんのような風格である。さらに体中から皮弁という突起を出している。そんなユニークな風貌のボロカサゴは、鰭を拡げた状態で前につんのめったり、後にひっくりかりそうになったり、はたまた右に左に倒れそうになるような独特の動きをする。まるで酔っぱらいの親父状態である。しかし本人曰くこれは「波間に揺れる海藻」に擬態しているそうである。どうひいき目に見ても海藻には見えないのであるが、本人は至ってまじめである。全身を駆使して海藻になりきって近くに寄ってきた魚を捕食する。体色が非常にバリエーションに富んでおり黄色や金色、紫や赤、茶色に白色と目を楽しませてくれる。いつも浮いているように見えるのは、体色を変えるのに1週間から数週間を要するため、その間周囲の色にとけ込んでいないのかもしれない。
以上のように擬態する魚たちは、捕食の成功率を上げるために、色や形だけでなく、動きを付けるまでしているのである。

ボロカサゴのカラーバリエーション。これは紫色(アクアス提供)大月町柏島
「ぼろは着てても」
エビやカニ、あるいは昆虫などが脱皮をするというのは多くの方がご存じだろう。彼らは節足動物というグループに属しており、成長に伴い身体のサイズが大きくなる際には「脱皮」する。彼らの体の表面はクチクラ(キチン質とタンパク質等)でできた外骨格で覆われている。脱皮により古い外骨格を脱ぎ捨てないと大きくなれない。そんな中、外骨格を持たない魚のなかに「脱皮」するものがいる。それがボロカサゴである。ボロカサゴの仲間は定期的に表皮がまさに「ボロボロ」と剥がれ落ちるのである。
「ぼろは着てても心は錦〜」かどうかはわからないが、脱皮後の新しいからだもやっぱりぼろなボロカサゴである。
(センター長 神田 優)

金色のボロカサゴ。周囲から完全に浮いているように見える(アクアス提供)大月町柏島
柏島の海には岩礁、藻場、サンゴ、砂地、転石など様々な環境があり、海に潜っていると多様な魚たちの生き様に触れることができる。岩の上に生えている藻を無心でついばんで食べる藻食魚、潮の流れに乗ってくるプランクトンをパクパク食べるプランクトン食魚、そして魚を食べる魚食魚など、食性も多様である。食べる側はいつも食べる側ではなく、食べられる側にもなりうる。食べられる側の魚はいかにして食べられないようにするか?周囲の環境にとけ込み、海藻やサンゴに擬態するものもいれば、高い遊泳力で逃げ切るもの、的を絞られないように群れで行動するもの、サンゴなどの狭い隙間をすばやく縫うようにして泳ぐものなど、こちらも実に多様である。
「擬態あれこれ」
擬態とは生物やヒトが、その色彩や形、行動によって周囲の環境(地面や植物、他者等)と容易に見分けがつかないような効果を上げることを意味する。カモフラージュともいう。擬態には隠蔽(いんぺい)擬態といって、自分が他の動物から捕食される可能性がある場合、周囲の植物や地面そっくりな姿をすることで、捕食者から発見されないようにするものと、攻撃擬態といって、捕食者が周囲の植物や地面の模様そっくりな姿をすることで、獲物に気づかれないようにする2つのタイプがある。
隠蔽擬態の名手としてはピグミーシーホースというタツノオトシゴの仲間がいる。体長わずか1cmたらず。ウミウチワというサンゴの枝に擬態し、体表にはウミウチワのポリプそっくりの突起があり、動きを止めると全くその存在がわからない。

ピグミーシーホース。フラッシュで浮き上がって見えるが肉眼ではサンゴと見分けがつきにくい
攻撃擬態する魚にはカサゴやオコゼのたぐいが多い。オニカサゴやオニダルマオコゼなどは周囲の岩に化け、ひたすらじっと岩になりすまし、餌が射程範囲に入るやいなや、目にもとまらぬ早業でひと飲みにする。オニダルマオコゼなどは擬態にかなりの自信があるのか、あるいは背中に猛毒の針を持っているからなのか、こちらがモノでつつくぐらいのことをしないと微動だにしない。岩と思って知らずに足で踏んづけたりすると刺されて大変なことになる。これらは擬態して動かないことで餌を取る例である。
カエルアンコウの仲間も体色を周囲の岩やカイメンなどに擬態して待ち伏せするタイプだが、前者よりもより積極的な行動をとる。額から延びている棒状の「釣り竿」(背びれが変化したモノ)の先端にある「エスカ」と呼ばれる疑似餌をひらひらさせ、それを餌と思って寄ってくる魚を丸呑みにする。

クマドリカエルアンコウ。こんなに派手でもカイメン類の横に寄り添うとわかりづらくなる(アクアス提供)
「まるで酔っ払い」
次に紹介するのは柏島でもまれにしか見られないボロカサゴである。いつも思うことだが、この魚はなぜか目立っている。周囲にとけ込むようにして餌をとる仲間が多い中、本種はひときわ浮いたような体色をしているように見える。ひげもじゃらの独特な風貌は、若魚でもすでにおじいさんのような風格である。さらに体中から皮弁という突起を出している。そんなユニークな風貌のボロカサゴは、鰭を拡げた状態で前につんのめったり、後にひっくりかりそうになったり、はたまた右に左に倒れそうになるような独特の動きをする。まるで酔っぱらいの親父状態である。しかし本人曰くこれは「波間に揺れる海藻」に擬態しているそうである。どうひいき目に見ても海藻には見えないのであるが、本人は至ってまじめである。全身を駆使して海藻になりきって近くに寄ってきた魚を捕食する。体色が非常にバリエーションに富んでおり黄色や金色、紫や赤、茶色に白色と目を楽しませてくれる。いつも浮いているように見えるのは、体色を変えるのに1週間から数週間を要するため、その間周囲の色にとけ込んでいないのかもしれない。
以上のように擬態する魚たちは、捕食の成功率を上げるために、色や形だけでなく、動きを付けるまでしているのである。

ボロカサゴのカラーバリエーション。これは紫色(アクアス提供)大月町柏島
「ぼろは着てても」
エビやカニ、あるいは昆虫などが脱皮をするというのは多くの方がご存じだろう。彼らは節足動物というグループに属しており、成長に伴い身体のサイズが大きくなる際には「脱皮」する。彼らの体の表面はクチクラ(キチン質とタンパク質等)でできた外骨格で覆われている。脱皮により古い外骨格を脱ぎ捨てないと大きくなれない。そんな中、外骨格を持たない魚のなかに「脱皮」するものがいる。それがボロカサゴである。ボロカサゴの仲間は定期的に表皮がまさに「ボロボロ」と剥がれ落ちるのである。
「ぼろは着てても心は錦〜」かどうかはわからないが、脱皮後の新しいからだもやっぱりぼろなボロカサゴである。
(センター長 神田 優)
投稿:
Kanda
/2012年 07月 30日 02時 23分